こんばんは、卵屋です。
医療界でよく議論になる問題の一つ、「タメ口問題」。
理学療法士に関わらず看護師やその他医療従事者が患者さんにタメ口を使うことの是非について議論になることは多い。
今回はこのテーマについて毎度のことながら持論を述べていく。
はじめに
まず「タメ口問題」に対する私の立場から。
私は、いかなる状況においても患者さんにタメ口を使うのはダメという意見には反対の立場。
つまりタメ口に関してはある意味、許容派なのだ。
そりゃそうだろう。
ここで「理学療法士たるもの患者さんにタメ口は何があっても絶対にダメ!」という普通すぎる意見ならこんなテーマで記事を書かない。
「実は私は大谷翔平選手はすごい野球選手だと思っている」と言っているようなものだ。全然違う、何を言っているんだ。
話を始めよう。
さて、もう一度言うが私の立場は「一部タメ口許容派」だ。
とは言ったものの、基本的に理学療法士や看護師が患者さんに見境なくタメ口を使うことに対しては反対だ。
このようなタメ口はシンプルにイラっとする(一般の方は驚くかもしれないが、未だに病院ではよく見られる光景だ)。
一部とはどういうタメ口を許容するのか、次から一つずつ解説していく。
なぜタメ口はだめなのか
議論に入る前に、今一度なぜタメ口がだめなのかを整理してみる。
➀「人生の先輩」に対して失礼だから
理学療法士の対象者は基本的に高齢者である。つまり年下の理学療法士が年上の患者さんと接するという構図がほとんどだ。年上に対して敬意を払うのは日本の文化として当然のこと。当然年上には敬語を使うべきである。
➁「お客様」に対して失礼だから
ビジネスの観点からすると、患者さんはお金を払ってくれる「お客様」である。年齢に関係なくお客様に対しては敬語で接するのが社会通念上の常識。自分たちに置き換えると、お店に入っていきなり店員さんから「いらっしゃーい、うちメニューいっぱいあるけど何にする?」と聞かれるようなもの。患者さんにタメ口を使うということがいかに常識からかけ離れていることか、今一度理解すべきである。
③「初対面の人」に対して失礼だから
では相手の年齢が下で、ビジネス上お客さんでもなければ別にタメ口でも構わないのかというと、そういうことでもない。そもそも、いい大人が初対面で出会った人にいきなりタメ口を使うこと自体非常識。家族や友人など深い関係でない限り基本的には敬語を使うのが日本の文化であり常識である。それがどういうわけか医療業界は昔からその常識が通用しない。年上であり、お客であり、初対面である患者さんに平気でタメ口を使う人が多い…よく分からない世界だ。
さてさて、なぜタメ口がだめなのかを整理した。当たり前すぎて逆に書くのが難しいくらいだった。
大前提、患者さんにタメ口を使うのはよくないことだという認識を基に次の話にすすむ。
タメ口を定義する
さて、次にタメ口の定義の話。
議論する上では何よりも大事なのが「前提の整理」。タメ口問題も例外ではなく何をもって「タメ口」と呼ぶのかが主張する人の間でズレている場合が多く、今一度「タメ口」というものについて定義する。
ここでのタメ口の定義はズバリ、「敬語の3種類(尊敬語、謙譲語、丁寧語)から外れるもの全て」とする。
例えば、
「上げます!はい下げて!はい上げる!はい下げる!…」
のように、訓練時は「あと3回です!」「はい上げます!はい下げます!」といちいち「です」「ます」などを入れていては、トレーニングの間やリズムが取りにくいときにそれらを省いて声かけすることが多々ある。
この定義では、それらも例外なくすべて「タメ口」と定義する。
その上で私は「一部タメ口許容派」の立場である。
許容できるタメ口
ここからが本題。
「一部タメ口許容派」の私が、許容できるタメ口について述べる。
訓練時の声掛け
先述の例のように「はい蹴って!」「上げて!下げて!」などの訓練時の声掛けはタメ口でも良いのではないかと思っている。いちいち「です」「ます」を入れていては、リズムが取りにくいから。
もちろん訓練中であってもリズムがゆっくりで十分「です」「ます」を入れられる局面では丁寧語を使うべきである。十分間があるのに「じゃあ立って!」「あそこまで歩いて!」はシンプルタメ口なのでそれは良くないと思う。
対象者が未成年(高校生まで)
ケースとしては稀だが、例えば中学生や高校生の子が入院してリハビリをする際は、タメ口でもいいのではないかと思っている。
理由は「子供」だから。
例えば、小学生の子に「初めまして、〇〇と申します。本日はどうされましたか?」と冗談ではなく真面目に聞いていては、相手(子供)側が委縮する姿が容易に目に浮かぶ。
いくら「対象者に敬意を」と言っても、イコール子供に堅苦しい敬語を使うことではないと思っている。
子供を舐めていいとかそういう話ではなく、コミュニケーションや関係構築の問題で、良いリハビリテーションを実施するために敬語が障害になる場面だってある、ということが言いたい。
では、仮に上記の論が正しかったとして、年齢による線引きをどこでするのか?
未就学児?小学生?中学生?高校生?大学生?
「高校生くらいが良いのではないか」というのが私の主張である。
いや20歳で線引きしてもいいんじゃないか…、いや高校生は見た目が大人の人もいるし中学生くらいまでにとどめた方がいいんじゃないか…等々、この辺りはそれぞれの考えはあると思う。
少なくとも、「子供」には敬語ではなく「丁寧なタメ口」で接するのが良いのではないかというのが私の持論である。
あいづち
患者さんと会話していて、「なるほど」や「確かに」といったあいづちは全部が全部敬語じゃなくていいのではないか、と思っている。
そもそも目上の人に対するあいづちに「なるほど」は不適切だ、他の言葉に言い換えるべきだ、という議論はビジネスシーンではよくある。
ただ、医療や介護の現場では日常会話に近い形で行われることが多く、ビジネスレベルまで堅苦しくなり過ぎない方が良いというのが私の持論(その理由は語ると長くなる)。
そんな中、「なるほど」や「確かに」をあいづちとして使う場面は頻繁にあり、タメ口を避けるために「なるほどです」「確かにです」とあえて丁寧語で発するのは、会話のリズムの問題、堅苦しくなりすぎる問題などの理由から避けた方がよいのではないかと思っている。
また、基本のあいづちを「はい」でしている人がたまに使う「なるほど」くらいは許される、が、基本のあいづちが「うん」の人が「なるほど」を使うと全体的にタメ口になるので許されないと思っている(この辺のニュアンスが伝わるか…)。
会話のあいづちで使用する一部タメ口は許容される、というのが私の持論である。
ツッコミ
前項のあいづちに近いが、患者さんが冗談を言ったときや、和やかな雰囲気を作るために使用する「ツッコミ」は一部タメ口でも良いのではないかと思っている。
というのも、患者さんとの信頼関係構築のために「笑い」はとても便利なツールなのだ。
なんでもかんでも見境なくつっこみ、患者さんをくさし笑いものにするのではなく、あくまでも「節度のある冗談」のレベルの話だ。
失礼、無礼、不謹慎…、このあたりの線引きが難しいのは周知のとおりだが、一方、その線を踏み越えない範囲で展開される「笑い」は、良薬、妙薬、特効薬…、患者さんとの心の距離を一気に縮める。理学療法士にとってこんな便利なツールを利用しない手はない。
PT「何言ってるんですか、まだまだ若いのに。」
患者さん「やだ!若いって、先生私何歳だと思ってるの?」
PT「え?何歳ですか?当てましょうか?」
患者さん「え?わかる?」
PT「そうですね~…75歳くらいですか?」
患者さん「あら、もう~上手だこと。」
PT「え?違いました?もっと若いですか?失礼しました。」
患者さん「違うわよ。」
PT「そうですね~、15歳くらいですか?」
患者さん「もう!(笑)」
PT「あ~もっと上ですか、失礼しました」
患者さん「上に決まってるじゃない。」
PT「そうか~、じゃあ、150歳くらいですか?」
患者さん「こら!(笑)」
鉄板のノリである。
そんな流れで患者さんと盛り上がっていくと、患者さんがエピソードトークを話し始める。
PT「へぇ~そうなんですね。」
患者さん「『おばあちゃん、早く良くなって退院してね』って言われたの。」
PT「え~めちゃくちゃ嬉しいじゃないですか!」
患者さん「それが違うのよ(笑)。」
PT「え、なんでなんですか?」
患者さん「もうすぐお正月じゃない?」
PT「え?あ、はい。」
患者さん「私が退院しないとお年玉がもらえないから(笑)。孫はその辺ちゃっかりしてるから私に退院してもらわないと困るって思ってるのよ。」
PT「悲しい!いや、違いますって!おばあちゃんを心配しているだけじゃないですか!(笑)」
患者さん「いや、違うのよ。前もお正月と誕生日と近いから、お年玉と誕生日プレゼントの分、合わせてお金をあげたら、『おばあちゃん、これどっちの分?』って…(笑)」
PT「いや、しっかり者!しっかりしてますね~お孫さん(笑)。」
といった具合で盛り上がることもあると思う。
このときに「悲しい!」や「しっかり者!」といったツッコミは厳密にはタメ口に分類されるのかもしれないが、これぐらいは許容してはもらえないだろうか。二人で笑い合って関係を作るための良きスパイス、二人で奏でるハーモニーのお供として目をつぶってはもらえないだろうか。
オナシャス!
節度あるタメ口
色々と書いてきたが、結局一番思っているのは、「節度あるタメ口」なら少しくらい許容してもいいんじゃないか?である。
文頭にあるようなタメ口を使う人は、節度なく、だれかれ構わず、見境なく使うから見ていて嫌悪感を抱いてしまう。
一方、ところどころタメ口が混じっていても不思議と嫌悪感を感じない人(スタッフ)がいるのも事実。
初対面、基本的な会話、改まって話すとき、真剣に話すとき…などは絶対に敬語にすべきだと思うが、患者さんと関係が出来ていて、ちょっとした会話の盛り上がりでタメ口になってしまうくらいは、そう取り立てて指摘するものでもないのではなかろうか。
一回、二回のタメ口そのものに目くじらを立てるのではなく、前後の文脈や患者さんとの関係性、周囲への配慮など総合的な観点でタメ口のあり・なしを判断してもよいのではないかと思っている。
まとめ
さて、今回はタメ口問題について切り込んだ。
「患者さんにタメ口なんて言語道断」という風潮の中、「許容されるタメ口もあるのではないか」と世間に一石を投じた形だ。
とは言え、患者さんには基本的に敬語を使うべきで、タメ口を推進している訳ではない。
記事にあるような細かな局面、また、最後に書いた「節度ある」という部分をしっかりと意識できていれば許容されるタメ口もあるのではないかというのが私の主張。
皆さんはどう考えますか?
今回はここまで。
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