臨床推論の話の途中なのだが、新しい企画を始めてみたいと考えている。
題して、”よく目にするけどよくわかってないものを深堀しよう”シリーズである。
なにが始まるのか、全く想像がつかないだろう。
題名そのままの内容であるが、”普段臨床場面にてよく目にする指標やデータに関して、多少の知識はあるけども、深くは知らない。とは言え、あえて時間をかけて調べようとも思わないもの”に関して、ブログ記事として深堀していこうという企画である。
なぜこのような企画を考えたのかについて少し説明しておこう。
まず普段よく目にするということは、臨床で遭遇する頻度が多いということを意味する。
しかしながら、浅い知識量であっても特に臨床で困らないことから、あえて時間をかけて深堀しようとも思わない。
こんなものが案外多いように思っている。
正直なところ、そんなものを深堀する価値があるのかどうかだが、臨床で遭遇する頻度が多いのであれば、深い知識を持っていても損はないだろうし、多少は臨床での見方が変わると考える。
また別の視点として、私自身が生理学について明るく、特に他者に対してわかりやすく伝える能力が高いと考えているため、ライトに見れるブログという媒体を通じて、読者の臨床の見方が変われば良いなと思った次第である。
さて、そろそろ本題に入ろう。
この実験的な企画の記念すべき第一弾として、どの病期でも目にする機会が多い、炎症マーカーの一つである、”CRP”について深堀していこうと思う。
その前に、以下の問いについて少し考えてみてほしい
Q1.CRPの正常値は?
Q2.CRPが産生される場所は?
Q3.WBCと比較し、上昇するスピードはどちらの方が多い?
さて、皆さんもCRPについて共に深堀っていこう。
そもそもCRPとは何か?
CRPとは、C反応性蛋白の略語であり、炎症、感染、外傷が体内で発生した際に増加するタンパク質である。
後述する白血球(WBC)と同じく、炎症マーカーとして有名である。
基準値としては0.3mg/dl未満として言われており、基本的に炎症や感染が無い場合は体内に生成されない。
逆に言えば、このCRPが上昇しているのであれば、何らかの炎症や感染が存在することを意味する。
続いて、CRPが上昇する過程について説明していく。
CRPが上昇するメカニズムとその役割
CRPの量が増加する過程は炎症や感染が発生すると始まる。
体内で何らかの異常が生じると、免疫細胞はそれを感知し、サイトカインと呼ばれるシグナル分子を放出する。
サイトカインは、細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たす小型のタンパク質またはペプチドである。
免疫系の細胞(例:T細胞、B細胞、マクロファージなど)だけでなく、多くの他の細胞タイプ(例:線維芽細胞、内皮細胞など)もサイトカインを生産することができ、特に免疫応答と炎症反応において中心的な役割を持ち。
イメージで言うと体に異常が起きた際の伝令役みたいな形か。
体内の以上にて放出されたサイトカインは肝臓に到達し、CRPの生成を促進する。肝細胞がこれらのシグナルを受け取り、CRPのmRNAを生成し、mRNAが翻訳されてCRP蛋白質が合成される。
つまり、CRPは肝臓で産生されるのである。
以上が炎症や感染によってCRPが上昇する機序となる。
続いて、CRPの役割について説明するが、CRPの主な役割はとしては、免疫応答を助けることである。
炎症や感染の箇所で、この蛋白質は細菌やダメージを受けた細胞に結合し、それを「マーク」することで、免疫細胞(マクロファージや中性球など)による除去を助けることになる。
この標的となるものに目印をつけておくことがCRPの主な役割となる。
またこのCRPについては、炎症の局所化、アポトーシス(プログラム細胞死)やネクローシス(細胞死)の残骸の清掃、心血管疾患のリスク評価など、多方面で用いられている。
ただし、冒頭にも少し述べたが、CRPは感染症や炎症性疾患の診断にしばしば用いられるが、非特異的なマーカー(どんな感染症や炎症性疾患でも反応する)であるため、単独での診断には限界がある。
つまり、CRPの数値から、個別的な疾患を抽出することは難しいということだ。
それゆえ、他の診断手段と組み合わせて使用されることが多い。
CRPとWBC(白血球)との関係
CRPと白血球(WBC)は、炎症や感染が起こるとともに上昇する指標であるが、いくつか重要な違いがある。
生成場所、機能、反応速度など、多くの面で異なる性質を持っているので、少し両者を比較して特徴を述べていこう。
生成場所と機能
上述しているが、CRPは肝臓で生成されるのに対し、WBCは骨髄で生成される。
CRPは炎症や感染の「マーカー」であり、その存在で免疫細胞が効率的に動作するよう助ける。
一方で、WBCは免疫反応自体を行う細胞であり、直接的に病原体を攻撃したり、アレルギー反応を調節したりする。
CRPはあくまで免疫反応における補助的な役割であり、WBCが実働部隊といった関係性だ。
反応速度と持続期間
CRPは感染や炎症が発生すると数時間で急激に上昇する傾向がある。
一方で、WBCは通常、より緩やかに反応し、数日かかる場合もある。
CRPは問題が解決した後、比較的早く正常値に戻る傾向があるが、WBCは持続期間が長い場合もある。
例えば、整形外科術後の場合、術後の炎症によってCRPが上昇するが、このCRPが低下しだす(ピークアウト)と炎症反応自体の山場が終わったと判断できるため、運動量をアップさせる絶好のタイミングとなる。
CRPが上がりそうで上がってない状況
さて、ここまではCRPの上昇についての内容だったが、最後にCRPが上がりにくい状態について説明して終わりたいと思う。
1. 炎症または感染の欠如
CRPは主に炎症や感染が体内で発生したときに上昇する。
したがって、これらの状態が存在しない場合、CRPのレベルは基本的に上昇しない。
逆に言えば、CRPが上がっていない場合は、特殊な場合を除き、炎症や感染が起きていないとみてもいいかもしれない。
2. 非特異的な疾患や状態
CRPは非特異的なマーカーであるが、すべての炎症や感染がCRPの上昇を引き起こすわけではない。
例えば、一部のウイルス感染や慢性疾患では、CRPの上昇がそれほど顕著でない場合がある。
また、肥満、不眠症、うつ病、喫煙、糖尿病などの合併症を持つ人の中には、CRPの上昇が軽度な人もいる。
3. 肝臓の機能障害
CRPは肝臓で生成されるため、肝臓の機能が低下している場合、十分な量のCRPが生成されない可能性がある。
ただし、これに関しては明確な臨床報告はなく、基本的に肝臓がんや肝硬変では上昇する傾向にある。
4. 免疫抑制
ステロイドや免疫抑制薬の使用は、CRPレベルを抑制することがある。これらの薬はサイトカインの放出を抑えるため、結果的にCRPの産生も低下する。
5. 遺伝的要因
個々の遺伝的背景によっては、CRPの生成が抑制されることがある。これは比較的稀なケースだが、一部の人々は遺伝的に低いCRPレベルを持つことが知られている。
6. 早期の段階
感染や炎症の非常に早い段階では、CRPがまだ上昇しきっていない場合がある。CRPは急激に反応するものの、数時間はかかることが多い。
7. 複数因子の相互作用
多くの場合、複数の因子が相互作用してCRPのレベルが決まる。健康状態、年齢、性別、その他の生活習慣などが、CRPのレベルに影響を与えることがある。
以上、これらの因子がCRP上昇に影響を与えるため、CRPが上昇しない状態は必ずしも「健康である」とは限らない。特に、他の症状や診断結果と総合的に評価する必要がある。
まとめ
今回は、新たな取り組みとして、”よく目にするけどよくわかってないものを深堀しよう”シリーズの第一弾として、CRPについて説明した。
またどこかで記事にしようと思うが、こういったよく目にする指標を早い段階で度深く学ぶことによって、その後の臨床において患者から得られる情報量や経験値に差が出てくると考える。
株式投資でいう福利の力みたいなものだ。
CRPの様に遭遇頻度が大きいものほど、この福利の力が大きくなると思われるので、またCRPについて気になった場合は、このブログ記事を思い出してほしい。
それでは今回はこの辺で!
”案外、深堀してみると知らなかったことも多いので、勉強になります。”
(´-`).。oO
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