こんばんは、卵屋です。
職場でよくこんなことを耳にする。
PT「患者さんには『退院したら外は危ないから歩かないで下さい』って伝えました。」
PT「家のお風呂は危ないからデイサービスで入るように家族に伝えています。」
PT「独居生活は危険なので施設方向をすすめています。」
こんな話を聞くたびに私は少しイラッとしてしまう。
はじめに
今回は理学療法士のとるべきスタンスの話。
先ほどの例は理学療法士がどういうスタンスで理学療法に臨んでいるかがいくらか読み取れる。そしてその提案の奥底にある魂胆まで透けて見える。
私は理学療法士の取るべきスタンスは「専門家としての助言や提案、アドバイス」であるべきだと思っている。間違っても「活動を制限したり強制したりできる立場にはない」と心得ている。
そもそもそんなことが出来る仕事は警察官など特別な権利が与えられている職業に限られている。社会のために社会が認めている権利である。そんな大それた話…、と思うかもしれないが、法治国家である日本で人権というものを尊重しながら個人の活動を制限することはとてもとてもハードルの高いことだと認識するべきである。
もう少し近い話で「ドクターストップ」なんていう言葉もあるが、これも基本的には法的な強制力はなく、医者から「やめた方がいいよ」と言われているに過ぎない。
さてさて、そこへきて一介の理学療法士が「外は歩かないでください」「お風呂はやめてください」などとは一体全体どういった了見だろうか。
「なぜお前にそんなことを決められなければならないんだ!」と平手打ちを2、3発食らわされても文句は言えない。
冒頭でも言った通り理学療法士の基本的なスタンスは助言や提案、アドバイスであるべきである。
あくまでも提案やアドバイスで、スタンスとしては「それを踏まえて最終的にどうするかはご自身で決めてください。」である。
そこで「いや、それでもワシは一人で行くんじゃ!放っておけ、若造!」と言われればそれまで。それ以上何も言わないし何も言えない。ご本人や家族の判断・決断にまかせるしかない。基本的にはこれが理学療法士のあるべき立場だと思っている。
はてさて、ではなぜ多くの理学療法士が「外は危ないから歩かないで下さい」と平気で言ってしまうのか。そのあたりを探っていこう。
実は何を隠そう私も若いころは同じようなことをしてしまっていた。立場を考えず勘違いな発言を繰り返していた。今思うと恥ずかしいし、患者さんには本当に失礼なことをしていたと心から謝りたい。自戒の意味を込めてこの記事を書かせていただく。
なぜ理学療法士は勘違いしてしまうのか?
ではなぜ理学療法士の多くがそんな風になってしまうのか。
それはずばり、自身の担当した患者さんが退院後に転倒してケガをした場合に、自分(理学療法士)のせいになると思っているからである。そういう教育を受けてきたからである。そして今も周囲の理学療法士に責められる風潮にあるからである。
担当した患者さんが転倒して骨折して再入院すると「何をしていたんだ」と周りの理学療法士からお叱りを受ける→そうならないようにしたい→家でじっとしておいてもらおう→デイサービスを利用してもらおう→常に誰かに見守ってもらおう→引いては施設に入所してもらおう…、などという恐ろしい考えまで持ち始めるのである。なるべくリスクを回避して転倒やケガから遠ざける、それが理学療法士の真の目的となりつつある。これは良くない。本当に良くない。我々の存在意義すら問われかねない。
確かに「転倒」や「骨折」はない方がいい。減らす努力は最大限するべきである。それが理学療法士の本分でもある。ただ、そのリスクだけに注目して「活動を制限すること」が我々の役割ではない。大いなる勘違いである。
外に出ないでください、一人で歩かないでください、そんなことを言うなら極論ずっとベッドで寝ていてもらえばこけはしないのだから。果たしてそれが患者さんの幸せにつながるのだろうか…。
勘違いしないためにとるべきスタンス
この話は突き詰めていくと「リスク」と「リターン」という話、そしてそれを誰が選択するのかという話に行き着く。
外に出ることで、一人でお風呂に入ることで確かにリスクは生じるが、それを補うリターンがあるのではなかろうか。外出することは楽しいし気分も晴れる、一人でゆっくりお風呂に入ると気持ちいいし幸せな気分になる、当たり前すぎて言葉に出すのも気味が悪い。そういったリターンも当然ある中、リスクにだけ目を向け「やめてください」は、理学療法士も偉くなったもんだと皮肉の一つでも言いたくなる。あなた(理学療法士)が「危ないから自転車・車は乗らない方がいいよ」と言われて素直に従うだろうか。
リスクとリターンのどちらを重視してどう決断するかは本人や家族にまかせる、そのための判断材料を提供し、少しでもリスクを減らせるように少しでもリターンを増やせるように専門家として提案する、それが理学療法士の役割ではなかろうか。
もちろん全力で考えて色んな提案をしてみても高いリスクが解消されないことが現実の世界では頻繁にある。
理学療法士が経験を積めばどんな患者さんの悩みもリスクなく解決できる、などとうさんくさいことを言うつもりもない。だからこそ、リスクが残った状態でその活動を選択するかどうかの「判断者」を理学療法士は分別しておかなければならないと言いたい。
自分たちの立ち位置をきちんと守るべきである。
無責任?仕事放棄?そんな意見も出るかもしれない。そのあたりの話はまたどこかで。
皆さんも一度自分たちの役割・立場を振り返ってみてはいかがでしょうか。
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