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回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る4(病棟 vs リハ)

全理学療法士向け
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こんばんは、卵屋です。

今回は回復期病棟の「病棟 vs リハビリ」の話。

これまでの記事はこちら↓
回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る1(タイムスケジュール)
回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る2(制度の表と裏)
回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る3(単位の話)

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はじめに

回復期病棟では日々、病棟スタッフとリハビリスタッフとの間で大小様々な「戦い」が繰り広げられる。

あるときは明らかに言い争いになる戦い、あるときは片方が文句を言い片方がぐっとこらえる戦い、形や程度は状況次第で大きく変化する。

ただ多くは、お互いが言いたいことを言わずにモヤモヤしたまま終わる、大きな戦いに発展しないけど遺恨は残す、いつ大戦争に発展してもおかしくない「冷戦」さながらの戦いが主となっている。

それらは各職種の根本の考え方の違いからくる「健全な対立」と、表層の意識の違いからくる「不健全な対立」とがある。

今回はこれらの実態を知ってもらうとともに「健全な対立」と「不健全な対立」について区別し、どうすれば言い争いは減るかについての持論を述べる。

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「健全な対立」と「不健全な対立」

突然だが健全・不健全クイズを出す。皆さんもこれは「健全な対立」か「不健全な対立」か考えてみて欲しい。

➀(状況:詰所にて)

リハ
「Aさんの病棟内の移動なんですけど、今、車椅子になってるのを歩行器で自立に上げたいんですけど。」
病棟「え、ちょっと待って、まだ危なそうじゃない?」
リハ「一応リハビリ中は問題なく歩けていますし、歩行テストやバランステストもカットオフ値をクリアしていて。」
病棟「でもトイレ行ったときとかたまにふらっとなるときあるよ?」
リハ「でも家に帰るためにはどこかで自立度上げていかないといけないので、そろそろ…」
病棟「何?それで転倒したら責任取れんの?!あんたたちリハビリ中しか見てないのに。」

答え→「健全な対立」
 
➁(状況:リハビリ誘導のために患者さんの部屋に入ったら)

病棟「あれ、リハビリ?ちょうど良かった。今おむつ交換でまわっていてこの方まだ見終わってないからついでにおむつチェックしといてくれない?」
リハ「あ、いや、今からリハビリなんで…。」
病棟「え?リハビリはおむつ交換しないの?排泄や更衣も生活の一部でしょ。」
リハ「今は立ったり歩いたりする練習が一番重要と考えていて…。」
病棟「何よそれ。排泄より大事なことってあるの?立っても歩けても排泄できなければ意味ないじゃない!まったく!」

答え→「不健全な対立」
 

健全な対立

さて、答え合わせをしていこう。

➀の状況は健全な対立と言える。

これを健全な対立と考える理由は「お互いが患者さんのために自分の役割を果たそうと必死になっているから」である。

理学療法士である私が看護師の役割を説こうなんておこがましい話なのは重々承知だが、看護師の大事な役割の一つに病棟患者さんの「心身の健康を守る」という役割が含まれていると思う。

こう言うととても広くなるが、ニュアンスとしては「安全を守る」という役割が含まれていると言いたい。患者さんの状態を観察し、評価し、主治医と連携し安全・安楽な入院生活を送るための援助をしていく、それらを主になって行う職種が看護師だと思っている。

そこへきて「転倒」という事象はなんとしても避けたいもの

怪我をして患者さんが苦しむ=健康が維持できない、ということは自身の責任でなんとしても防ぎたい、という表向きの理由と、近年「転倒」というもので裁判沙汰になるケースも増えているという裏の理由もあるだろう。患者はもとより自分や病棟を守るためにも転倒という事象はゼロにしたい。そう思うのは看護師の責任感の表れだと私なんかは好意的に捉えている。

一方、リハビリスタッフの主な役割は患者の「ADLを上げていくこと」。リハビリの本分である社会への復帰、その最も重要なステップである自宅への復帰、その支援をする主の役割が理学療法士をはじめとしたリハビリスタッフだと思っている。

その役割を担っているリハビリスタッフとしては少しでも病棟のADLを上げておきたいとなるのは当然。転倒リスクを考えながらも可能な限り早期に病棟ADLを上げ退院へ導く、その責任の表れが➀のやり取りという訳だ。

当然お互いどちらの考えも持つ必要があり、看護師は社会復帰なんてどうでもいい、リハビリは転倒なんて二の次などと考えている訳ではない。

「ゼロ百」の考えではなく、あくまでも主として担っている役割は何かという話で、それらの役割・責任感がぶつかり合い妥協できるポイントを探し現実的な落としどころを見つける作業こそが「健全な対立」につながる。

「健全な対立」を定義するなら、「お互いが患者さんのために自身の役割を責任をもって遂行しようとするがために起こる対立」となる。

 

不健全な対立

次に「不健全な対立」について考えてみよう。

➁の状況は不健全な対立と言える。

さきほどのそれぞれの役割というものを考えてみよう。

看護師の役割の一つに「入院生活の援助・ケア」というものがある。要は病気や怪我で自分で自分のことが出来なくなった患者さんの生活上の手伝いをするということだ。

ご飯が一人で食べられない患者さんの食事介助、トイレに一人で行けなくなった患者さんの排泄介助、お風呂に一人で入れない方の入浴介助…等々生活全般の介助がこれにあたる。当然病院には看護師だけじゃなく介護福祉士もいて一緒に援助を行う(看護師 vs 介護士の対立もあると聞くがここでは割愛する)。

➁の「おむつ交換」という業務は患者さんの「生活上のケア」に他ならない。これは明確に看護師・介護士の役割であると言える。

一方、リハビリスタッフの役割は先ほど述べた通り社会復帰・自宅復帰への支援である。そのために機能訓練やADL訓練を行い患者さんの能力獲得を図る。

当然、その目的のためには「おむつ交換」の評価や訓練を行うこともある。が、あくまでもその目的は「評価・訓練」であり「ケア」ではない。
(このあたりは以前、詳細に書き記したので是非一読願いたい→理学療法士はオムツ交換をすべきか?

➁の状況は本来看護師・介護士の役割である療養上のケア目的の「おむつ交換」を、自身が楽をしたいからといって、その役割でないリハビリスタッフへ押し付けていることで起こっている対立のため「不健全な対立」と言える。

つまり、このパターンは純度100%で看護師が悪い。もっともらしい御託を並べて自身の主張を正当化しようとしている点もタチが悪い。こんな看護師であふれかえっているからうちの病棟は…といかんいかんつい愚痴になってしまった。まともで真面目に働いている全国の回復期病棟看護師さんのお目を汚さないよう気を付けなければならない。

 

さて、不健全な対立と健全な対立の違いは何か?線引きはどこですればよいのか、その辺りについて整理する。

➁の状況は看護師が自分たちの役割をリハビリスタッフに押し付けたことが問題だった。

では同じ「おむつ交換」問題でもこうなっていたらどうだろう。

➂(状況:リハビリ誘導のために患者さんの部屋に入ったら)

病棟「あれ、リハビリ?ちょうど良かった。今おむつ交換でまわっていて、ちょうどそのことで相談したかったから一緒に手伝ってくれない?」
リハ「あ、いや、今からリハビリなんで…。」
病棟「あ、だからおむつ交換のやり方で家族さんが楽になるやり方がないかって相談したいの。」
リハ「今は立ったり歩いたりする練習が一番重要と考えていて…。」
病棟「私は今は排泄介助のやり方について考える方が大事だと思うわ。」

あえて「対立」とするために言い争い風に書いてみたが、実際こんなやりとりはまぁあり得ない。

もし現場で看護師からこのような相談があれば、リハスタッフは嬉しくて楽しくて飛び上がることうけあい。本来ありえないやり取りだが、もしこのような対立があったとすればそれはもう間違いなく「健全な対立」、というかリハビリスタッフが悪いまである。

先ほどと違うのは看護師が自分が楽するためではなく、患者さん(または家族さん)のために提案した内容がリハビリスタッフの考えと違ったというだけのこと。リハビリスタッフも自身の責任のもと優先度の違いを主張しただけで、これらは先ほど述べたように自身の役割を責任を持って遂行しようとしたがために起こる対立である。

このあたりから健全な対立と不健全な対立の区別や線引きが見えてくる。

「不健全な対立」とは「一方もしくはお互いが、自分の役割を考えず、自分が楽するために、他職種に業務を押し付けようとするがために起こる対立」と言えよう。

ポイントは3つ

  • 自分の役割を考えない(自分の役割に対する責任感がない)という点
  • 自分が楽するためという点
  • 他職種に押し付けようとする点

これらの結果おこる対立が「不健全な対立」と言える。

  • 看護師がリハにおむつ交換を要求してくる、
  • リハが看護師に患者さんの状態を報告しにいったらめんどくさそうな対応をされる、
  • 看護師が患者さんの部屋の環境調整をリハに丸投げする、
  • 看護師が食事介助までリハに要求してくる、
  • 看護師が患者さんの検温や状態観察までリハに要求してくる、
  • 看護師が退院調整全般についてリハに丸投げする、
    …そのことにより起こる対立。

病棟で起こる看護師とリハスタッフとの対立は、ほとんどが「不健全な対立」であり、
病棟で起こる「不健全な対立」のほとんどは看護師のせいである。

「患者さんのため」と言葉では言っていても、隠された本音が自分が楽するためなんてことは看護師あるあるで、矢印が自分に向いている(自分が楽したい、責任を押し付けたい)か、患者さんを向いている(たとえ自分の業務負担が増えてでも患者さんのために言っている)かは一緒に働いているとすぐに分かる。

もう一度言おう、病棟で起こる「不健全な対立」のほとんどは看護師のせいである。

いかんいかん、ただの愚痴になってしまった。

当院以外の回復期病棟がそうでないことを切に願うが、病棟というところは多かれ少なかれ「不健全な対立」が存在する。

今から回復期病棟に就職しようとしている新人理学療法士諸君、あるいは回復期病棟に転職を考えている現役理学療法士の皆さまは是非このあたりの実情も知っておくとよいだろう。

 

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病棟とリハの対立を減らすにはどうすればよいか

さて、私の愚痴はこのあたりにしておいて前向きな議論をすすめる。

まず「健全な対立」に関しては放置してよい。

というより活発に起こる病棟の方が良い病棟だと思う。それぞれの責任を果たそうとしているからこそ起こる対立である。

この対立が起こらない病棟はかえって良くない、それぞれ役割を果たす意識が薄く、なんとなくでことが運んで、なんとなくで患者が退院していく。

退院までこぎつけられればいいが、多くはなんとなく時間だけがすすみ、退院前になってバタバタ。追い詰められてようやく「さあどうしよう」となるケースが多い。

あるいは➀の例で言うと転倒しても責任の所在が曖昧、次に活かそうともしない。また同じ失敗を繰り返す。

それぞれの職種が自身の役割を自覚し積極的に関わることで生まれる対立なので「建設的な批判や議論」はむしろ活発になされるべきである。

問題は「不健全な対立」

どうすれば、これら不健全な対立を減らすことが出来るかを考えてみる。

 

それぞれの主の役割を明確にする

先の例で挙げたような「不健全な対立」は、誰かが誰かに役割と違うことを求めるから起こる。

看護師、リハビリスタッフ、双方の役割を双方が理解することが肝心であり全ての土台になる。

例えば、互いが業務としてやっている「排泄介助」も、それぞれの役割を考えるとその目的が異なる。

「療養上のケア」なのか「自宅復帰へ向けた評価・訓練」なのか。リハスタッフが「評価・訓練」を目的としない「ケア」を看護師から強いられる道理はどこにもないのだ。

これらは全てそれぞれの職種の役割を明確にすることで解決される。

 

業務の責任の所在を明確にする

次に一つ一つの「業務」に対する責任を明確にする。

先ほど挙げた各職種の役割が明確になると、日々の業務の責任がはっきりしてくる。

例えば、「排泄方法の評価」はリハ・「排泄介助」は看護師、「自室環境の評価」はリハ・「自室環境の決定」は看護師、と言った具合で、「排泄」「環境調整」と一括りにしてどっちがやるではなく、同じような内容でも、どこまではリハの責任でどこからは看護師の責任といった具合でその役割に照らし合わせて責任の所在を明確にする。

当然、これらはきれいスッパリと区切れるものではない。先にも出た「ゼロ百」の考えではなく誰が主になってその責任を負うかを共有しておく必要があると言うことだ。

日々の業務の中ではリハスタッフが排泄介助をすることもあるだろうし、看護師が自室環境を評価して決定することもあるだろう。ただ、立ち返って考えた時に「本来は誰の責任か」が明確にならないと、「いつも〇〇さんがやってくれるから」とそれぞれの役割などそっちのけの業務分担になっていってしまう。

それぞれの役割から導き出された業務の責任範囲をきっちり区別し、業務にあたるべきである。

 

姿勢や態度に気を付ける

実はこれが最も大事。

ここまで聞いた人の中には「いやいや、役割や業務の責任を明確にするなんて、逆にスタッフがそれ以外はやりません、あなたたちの仕事でしょ、ってなっちゃってかえって争いが増えるんじゃない?」と思った方もいるかもしれない。

うむ、その通り。「役割や業務の責任を明確にする」ということはある意味こうなるリスクをはらんでいる。

中途半端にやると必ずと言っていいほど対立は増えるだろう。

が、ここが管理者の腕の見せ所。

役割や業務の責任を明確にしたうえで「それだけをやりなさい」という仕事の降ろし方をするとこうなることは目に見えている。が、何度も言うがこれらは全て「ゼロ百」ではない。病院において誰かだけが全ての責任を負っている業務なんて一つもないと言っても過言ではない。

主の役割は誰々と決まったからと言って、皆その業務だけをやっていればいいというものではないと部下に指導できるかどうか。積極的に協力する姿勢は持ちなさいと強く指導すべきである。かつ、自身の役割を他職種がしてくれたときには感謝をしなさいとしっかりと伝えるべきである。

ケアを目的とした排泄介助にリハビリスタッフが関わった際は、看護師から「すいません、私たちの仕事なのに…」や「ありがとうございます」といった一言があるだけで次からも積極的に協力しようという気持ちになるし、看護師がリハビリ前に車椅子に座らせてくれていたときには、「ありがとうございます!助かります!」と全力で感謝を伝えることで相手の気持ちもよくなり、相乗効果的にお互いの意識が上がる。

役割や責任の所在を知った上で積極的に他職種の業務も協力し合えるかどうかが対立を減らすカギとなる。

そしてそれこそが私の目指す理想の病棟である。

そんな病院で働きたい…。

 

まとめ 

今回は回復期病棟で起こる「病棟 vs リハ」の対立について書いた。

病棟での実態と「健全な対立」「不健全な対立」の区別、解決方法について持論を述べた。

ほとんどが私の看護師に対する愚痴となったが、読者の皆さんが、「いやいや誇張して書きすぎだろ!こんな病院あるもんか!」と思っていてくれていることを切に願う。

回復期病棟で働く理学療法士に幸あれ。

ありがとうございました。

この記事を書いた人
卵屋

ブログ管理人、投稿者。
おっさん。回復期病棟で働く理学療法士。

普段から仕事や日常の出来事について熱く語り合っているおっさん達で「せっかくだから自分たちの考えを世の中に発信していこうぜ」とブログをはじめました。
おっさん達の発信が誰かの役に立てば幸いです。
よろしくお願いします。

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