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回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る5(退院時期問題)

全理学療法士向け
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こんばんは卵屋です。

回復期病棟について第5弾。

前回は病棟とリハの対立について書いた。

今回は患者さん側と病院側との意見の対立について書いていく。

これまでの記事はこちら↓
回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る1(タイムスケジュール)

回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る2(制度の表と裏)

回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る3(単位の話)

回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る4(病棟 vs リハ)

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はじめに

患者さんと病院とではいくつか意見が対立することがある。その代表的なものが「退院時期問題」である。

ここでいう「病院」とは医師や看護師、そして我々理学療法士も含めた「病院側の総意」として捉えてもらいたい。

病院がビジネスの側面を持つ以上、やはり「お客」と「お店」の間でのトラブルは付き物、全てが双方の思い通りという訳にはいかない。

今回は、なぜ退院時期について、意見の対立が起こるのかについてまとめてみる。

 

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退院時期問題

退院時期問題とは

以前の記事でも書いたように回復期病棟で働く理学療法士が回復期病棟を語る2、回復期病棟では早期の退院が求められる。

つまり病院側は「早く退院して欲しい」。

一方、患者さん側は「長く入院したい。もっとリハビリを受けたい。」という人が多い。

すると、

病院「そろそろ退院しましょう。」
患者「もっと入院(リハビリ)したい!」

という闘いが盛んに行われる。

なぜこうなるのだろうか?

この対立が起こる原因は3つに分類される。

1.病院側の怠慢
2.患者側の無理な要求
3.病院と患者の考え方の違い

である。

それぞれ解説していこう。

病院側の怠慢

当たり前の話だが、病院側が「そろそろ退院しましょう」と言うとき、患者さんは「家で生活を送ることができる状態である」という前提でなければならない。

そりゃそうである。

例えば、脳卒中を発症して1か月、重度の運動麻痺があり身の回りのことは介助してもらないと出来ない、まだ家の環境も整っていない、介護保険も申請中の患者さんがいたとして、そんな状況で「そろそろ帰りましょう」なんて病院側が提案したら、それはただただ回復期病棟としての責務を果たしていないだけで、患者さん側が「待ってください、もう少し入院してリハビリさせて下さい、もう少し色々整うまで入院させてください」となるのは当然だ。

と、極端な例を出したが、ここまでではなくても、病院(回復期病棟)としてやらなければならないことをやらずに、経営や運営など「こちらの都合」だけで退院を迫るのは非難されて当然である。
(この「やらなければならない」の線引きがきっちりと規定できないのがより話を難しくしているのだが…。)

明らかに病院側の「怠慢」が原因で起こっている「対立」ならばただただ病院側の問題。患者さんは運が悪かった、はずれを引いたとしか言いようがない。

一方、個人的にはこういう病院・病棟はあまり多くないと思っている。

というのも、医療職というものはそれなりに高い「倫理観」を持っている。特にセラピストは無駄に高いそれを持っている。いや、「倫理観」なんていうと何か崇高な良いものに聞こえる。言いたいニュアンスと違うぞ。どちらかと言うと「誤った固定観念」を持っていると言った方が正しい。要は医療提供側の「最低限しなければならないこと」を見誤って、というより「不要に高く釣り上げて」自分で自分の首を絞めようとする節がある。そしてその動機は「そうしないと自分に責任が降りかかると思っている」からである(うんうん、この方がしっくりくる)。

つまり、セラピストは「こんな状態で家に帰したら生活が出来ないんじゃないか、それで問題が起こった場合自分の責任になる、何とかして自分の責任にないように最低限の形だけでも整えよう」という思考を強く持っており、カンファレンスなどでたくさん意見をする。良い風に言うと、その結果「流石にこの状態で家に帰すのはマズいんじゃないか」という状況は回避できるという寸法だ。

ただ、実際は医師や看護師も当然最低限の責務は果たす抽象的な線引きはしており、どちらかと言うとセラピストは「自分のために」あれこれ無駄に提案、何なら強制しようして白い目で見られるケースが多い。十分家で生活できる状態なのに「この場合を想定してまだリハビリ続けた方がいいと思います!」「まだ〇〇が獲得されていないので練習を…」などと「完璧」を求めようとして煙たがられることが…

ん?どんどん話が逸れてきたぞ、いかんいかん「退院時期」の話だった。

話を戻そう。

このように病院側の怠慢が原因で対立が起こるケースと、一方でそのケースはあまり多くないということが言いたい。

 

患者側の無理な要求

病院側を非難したので次は患者側。

ここでは、微妙なラインではなく明らかに患者側の無理な要求について取り上げる。

何度も言っているが回復期病棟は「家(もしくは施設)に帰ることを目的にリハビリする病院」だ。言い換えると「リハビリが必要だから入院」している。

そこへ来て、もう退院できる状態に達したのに、

「夏は暑いから涼しくなるまで入院させて欲しい」

「孫が受験で家がバタバタしているからもう少し入院させて欲しい」

「ここはご飯も出て、お風呂も入れてもらえて、リハビリもしてもらえる。とても快適だからもう少し入院させて欲しい」

などと本気で言ってくるから、ハァ~…と深いため息をつきたくなる。

それはもう自分で施設なりを探してそこで好きに楽しくやってくれ、と心から思うのだ。

何度も言うが回復期病棟は「リハビリをするための入院」なのだ。リハビリが必要なくなっているのに他の目的で入院するのは、割烹料理屋にパソコンを持って勉強しにいくようなものなのだ。

当然こんな要求にいちいち応えていられない。「なるほど、ご希望は分かりました、とっととお帰り下さい。」と丁重にお断りすることになる。

 

病院と患者の考え方の違い

さて、病院側、患者側双方の「悪い点」が出揃ったところでここからは、どちらも悪くないけど起こってしまう対立について述べていく。

以前にも述べたが制度上「国」は早期の退院を求めている「実績指数」という数値を出し、指定した値を下回れば報酬を減らすといった具合だ。すなわち、病院側は患者に対してなるべく早期の退院を求める。

一方、患者側は「長く入院してリハビリを受けたい」と考える。

なぜこのような対立が起こるのか?

それは、病院側の考えるゴールと患者側の考えるゴールにズレがあるからである。

ちなみに当院のゴールの判定は「自宅で自立した生活が送れる」or「病棟生活上のFIMの点数が頭打ち」のいずれかである。

この辺りは病院の方針によるので多少の差はあるかもしれないが、多くの回復期病棟で似たような設定になっているのではないだろうか。

すなわち、家で生活が送れると判断した時点で、あるいはそれが難しい場合はFIMの点数に伸びがなくなった時点で、「本人・家族の納得のいく形でなくても」退院を提案する。

実績指数というものが回復期病棟を運営する上で絶対的な基準になっている状況ではこのような考えになるのはある意味仕方ないと言える。

極端な話、患者がどれだけ長く入院しても回復期病棟の経営上問題にならないのならばそこまで大きな問題にならない。事実、実績指数というものが出る前はもっと患者は長期に入院していた(制度上の上限日数ギリギリまで入院している例もそこそこいた)。それを制度が許さなくなっているという事実がある。

と言うのが病院側の理屈。

一方、患者側はそんなことは知ったこっちゃない。

家で自立した生活ができる目途がついても「もっと良くなりたい」「元の生活が送れるようになりたい」と願う。あるいは自宅での自立した生活が送れそうにない(介助が必須)と判断されても、「もっとリハビリすれば良くなるのではないか」という思いを捨てきれない。こちらも当然の希望だと言える。

ちなみに、回復期病棟で働く理学療法士として、病棟の運営や経営とは切り離してこの問題について意見させてもらうなら、個人的にはそれでも患者は早期に退院した方が良いと考えている。

これは病院を思っての意見ではなく、患者さんを思っての意見である。

なぜなら、自宅と病院とでは物理的な環境が違い、入院が長引くほど患者は自宅環境での生活を送る機会が減ることになる。また色々なことが介助してもらえる病院生活に慣れることで、自宅で生活するより活動量が低下する。すると「回復期病棟なのに」廃用症候群を起こすことになる。発症直後や回復段階の時期はさておき、ある程度生活が送れる時期にくると、入院してリハビリしているより自宅で生活を送る方が良いリハビリになる、というのが私の持論である。

病院側の経営を度外視しても早期の退院を目指す方がより患者にとって良いことだと考えている。

さてさて、そんな病院や私の考えとは裏腹に患者さんは長期の入院を望む。

なぜそういう考えになるかを考えてみる。

「退院したくない」患者・家族がよく持つ考えは以下の3つ。

1.退院=病気の治癒
2.退院=入院前と同じ生活が送れるようになる
3.退院=リハビリをしてもこれ以上身体機能の向上がなくなる

一つずつ解説する。

 

退院=病気・怪我の完治?

例えば大腿骨頚部骨折を受傷して手術をした患者さん。回復期病棟を退院する際、多くは股関節付近の痛みを残したまま退院することになる。また健側と比べて術側股関節の筋力は低下したまま、さらに歩行状態も跛行が残存したまま杖や押し車を使用して退院することが多い。つまり、怪我をする前と同じ身体状況になっていないまま退院する方がほとんどである。

「え!そうなの?!」と思った方。そうなんです。手術を要するほどの骨折という怪我はそう簡単に完治するものではないのです(完治の定義にもよるが)。特に高齢であるほど元の状態に戻る可能性は低く、「後遺症」を抱えながら退院される方がほとんどなのです。

また、「骨折(手術)」であれば怪我をする前と同じ状態に戻る方も少なからずいるが、「脳卒中(片麻痺)」となるとそうはいかない。現代医学において一度損傷した中枢神経を元に戻すことは今のところ不可能なのである。

私たち医療職からするとそれらは言わば「当たり前」、むしろそんな状況でも生活できるようにするのが理学療法士の腕の見せ所。杖などの補助具を選定するもよし、手すりを設置して伝える環境を提案するもよし、どうにかして生活を成り立たせるように奮闘する。

その結果、自宅での生活が出来そうなレベルにまで達したところで「そろそろ退院を」と話を持ち出すのだが、患者側からするとそんな「当たり前」は通らない。「え!?まだ痛みがあるのに退院させるんですか?」とこうなる訳だ。

 

退院=入院前と同じ生活が送れるようになる?

これも1.が原因になることが多いが、当然「後遺症」があると患部の機能が低下しているので歩行をはじめとした基本動作に影響が出る。

また仮に患部の機能がほぼ元通りに近く回復したとしても怪我→手術→療養と長期間ベッドで過ごす時期があったことで身体の衰え(廃用症候群)というものが必ず起こり、さらにそれは短期間では元に戻せないことが多い。高齢になるほど特にだ。

すると、家に帰ることは出来るけれども、入院前とまったく同じ生活は送れる状態ではない、出来ない部分は介護保険サービスや家族の支援を受けながら生活をする、また退院後もリハビリを続けて入院前と同じ状況を目指す、そんな「退院」を提案することが多々ある(このあたりは病院の方針にもよるが)。

当然、どう考えても生活が成り立たない状態での提案することはまずない。最低限、自宅生活が可能と判断された状態で提案をする。

が、患者側からすると納得がいかない。「まだ入院前と同じ生活が送れないのに退院させるのか!?」とこうなる訳だ。

 

退院=リハビリをしてもこれ以上身体機能の向上がなくなる?

これも、よくある例。

章の冒頭で述べた通り、病院はゴールの目安を「自宅で自立した生活が送れる」or「病棟生活上のFIMの点数が頭打ち」に設定しており、すなわちICFで言うところの「活動」の層に焦点を当てている。

これは「機能」レベルを軽視しているといった話ではなく、理学療法士であれば当然、「活動」を上げるために「機能」にアプローチをする。が、理学療法士を含めた病院側がその「成果」(いわゆるアウトカム)をどこで評価するかとなると、やはり「活動」がメインになる冒頭でも言った通り「FIM」を報酬上の評価対象にされているからである。

一方、患者側は当然そんなことは知らないし知ったこっちゃない。1.~2.で述べてきた通り基本的には「元通りになりたい」という思いがある。生活動作云々はさておき、これ以上リハビリしても身体機能が変わらないレベルまで達して退院したいと願う。

すると、「もう歩けるようになったし生活も自立したので退院しましょう」と話を持っていくと、「まだちゃんと歩けない」「リハビリしてももう意味がないってことですか?」とこうなる。

「リハビリしてももう意味がないってことですか?」、これに建前として答えるなら、「リハビリしてもこれ以上機能が上がらないという訳ではないけれども、退院して日常生活を送るのと入院したままリハビリを続けるのでは前者の方がよりよいということです」となる(建前のように使うが本当にそうだとも思う)。

経営的な面からの本音を言うなら、「これ以上入院してもFIMは上がらないのでとっとと帰ってください」となる。「動作が自立したあとの更なる機能向上を目指すのは自由だが、それを目指していつまでも入院していられる病棟ではない」という訳だ。

 

考えの違いが起こらないための対策

さて、病院と患者との間で起こる考えの違いについて述べてきた。

ここまでを聞いて、「え、うちの病院ではそんなことほとんど起きないけど…。そんなこと本当によくあるの?」と思った理学療法士の諸君、羨ましいぜコンチクショー!

そう、これらは防ぐことが出来る。

対策は主に以下の2つだ。

1.退院時期についての病院の方針を明確に伝える

2.早期から主治医より予後予測を伝える

 

1.院時期についての病院の方針を明確に伝える

制度上の入院期間の上限(運動器90日、脳血管疾患150日など)は決まっていて、その付近まで入院しているケースは今ではかなり少なくなったが稀にある。が、ここまで来て退院でこじれるパターンは少ない。「国の制度上これ以上入院出来ないんです」と言えば患者側も納得せざるを得ない。

問題は「制度上の入院期間がまだあるのに退院させられる」ケースである。「まだ入院出来るんでしょう?だったら入院してリハビリさせてください」となる訳だ。

これについては「病院の方針」であることを明確に伝える必要がある。

入院する前から、また入院してからも「当院ではおおよそこういう状態になったら退院してもらいます」と、暗に「それが嫌ならうちには入院しないでね」と伝えておく必要がある。

最も問題になるのは、患者の考えと違ったことを退院直前になって言われることである。患者側の立場になると当然である。思っていたことと違う、もっとよくなるまで入院出来ると思っていた、となるのはごく自然だと言える。

これらの役割は病棟の管理者(師長や医師など)である。

 

2.早期から主治医より予後予測を伝える

これも大事。退院直前になって急に「これ以上は良くならないから帰ってね」と言われても当然患者は納得できない。

入院早期から、ある程度「多少痛みは残る可能性があります」といった予測を伝えておくことで本人・家族ともに心積もりができ、退院を提案したときの「まだ痛みが残ってます!入院させてください!」を防ぐことが出来る。

これは言うまでもなく主治医の役割である。

そう、何事も前もって伝えておくことが大事なのである。

 

逆に言うとこれらが出来ている病院では退院時期問題はそう起こらない。ここまでの話にピンとこない理学療法士は、そういう病院で働けているということだ。だから羨ましいのだコンチクショー!

 

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まとめ

今回は回復期病棟でよく起こる「退院時期問題」の原因と対策について述べた。

1.病院側の怠慢
2.患者側の無理な要求
3.病院と患者の考え方の違い

の3つの原因があるが、ほとんどは3.が原因で起こる。

何事も最初からの説明が大事であると思う。

 

※今回の話は、私の経験上、また周囲に聞く限りでの話なので少数派であれば喜ばしい。全国の回復期病棟で同じことが起こっていないことを切に願う。

この記事を書いた人
卵屋

ブログ管理人、投稿者。
おっさん。回復期病棟で働く理学療法士。

普段から仕事や日常の出来事について熱く語り合っているおっさん達で「せっかくだから自分たちの考えを世の中に発信していこうぜ」とブログをはじめました。
おっさん達の発信が誰かの役に立てば幸いです。
よろしくお願いします。

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