こんにちは、まめたです。
理学療法士として勤務していると、急性期・回復期・生活期に関わらず脳血管疾患による後遺症をお持ちの患者さんに関わる機会があるかと思う。その中でも、高次脳機能障害や言語聴覚士の領域でもある失語症は直接治療する訳ではないが、関わる際には考慮しなければならない後遺症だと考える。今回は私が失語症の方と関わった際に直面した体験をについて書かせてもらう。
退院後に届いた手紙
私が回復期病院に勤務していた際、脳梗塞により右片麻痺および全失語を呈した男性の方(以下、Aさん)を担当していた。Aさんは、立位保持や移乗動作は手すりを持てば概ね見守りで可能であり、移動は車いす見守りレベル、日常生活動作全般には介助が必要なレベルで妻の待つ自宅へ退院された。
当時の私は妻が献身的に介護されるであろうことを想像しており、自宅退院してからも介護保険サービスを使いながら生活していくことから、あまり退院後のことに気をとめていなかった。
そんな折、つてを頼ってか私のところにAさんの妻から手紙がきた。手紙を要約すると、「退院してからの生活がとてもつらい。何か伝えようとしているのは分かるが分かってあげられない。毎日泣いて過ごしている。」というような内容であった。
私は衝撃を受けた。明らかに自分の想像を越えることが起こっていた。退院時には「うまく失語症と付き合っていくしかない」などと自分の中で思うことは私の便利な妄想であった。実際にうまく付き合えていなかったのだから。
退院後の現実
それから私はAさんの妻へ連絡をし、直接会いに行った。(本来であればケアマネジャーなどに連絡をすれば良かったのだろうが、まだまだ周りが見えていなかった。)私が会いに行った時はAさん、妻ともに穏やかな表情であったが、妻に話を聞くと、伝えたいことがなかなか伝わらないとAさんがテレビのリモコンを投げるなど、病前では考えられないようなことをする時があるとのことであった。(これが前頭葉症状によるものかどうかはさておき、失語症によりコミュニケーションがとれず精神的に負担がかかっていることは間違いないであろう。)そのようなことが重なり、妻は分かってあげられない自分を攻めるなど介護を継続することに思い悩んでいたのである。
私は話を聞くことしかできなかった。失語症に対してコミュニケーションの改善をする知識も持ち合わせていなかった。(入院中、もちろんSTも関わっており、コミュニケーションの改善には努めていた。)そのため、折をみては連絡させてもらい、たまにご自宅へ足を運んで様子を伺い、見守らせていただいていた。
経験した人にしかわからない
退院後のAさんとの関わりから、ある程度経過したころ、失語症を患った男性の方(以下、Bさん)に関わる機会があった。Bさんは自宅退院し妻と2人で過ごされていたが、Aさんと同じようにコミュニケーションにストレスを感じており、妻に対してつらく当たってしまうことがあった。私はAさんのこともあったため、退院後もBさんの妻と連絡をとっていた。その際も私が直接できることは先ほどのAさんと同じく話を聞かせていただくことしかできなかった。
AさんとBさんのご家庭と関わる中で、介護者である妻がケアマネジャーさんやヘルパーさん、友人などにはなかなか気持ちが分かってもらえる気がせず、1人で思いを抱え込んでいる現状があることを知った。そのため、AさんとBさんのご家庭が同じ境遇であることを考慮し、相談した上で介護者であるAさんとBさんの妻に集まってもらい話ができる場を設けた。
当時の私は上手くいくかドキドキしていたことを覚えている。最初は自己紹介から始まり、緊張しながら会話が始まったが、次第に「そうなのよ」「わかるわ」など、お2人が意気投合されていく様子がみられ、その会はとても有益な会となった。
会が終わったあとに、Bさんの妻が言っていたことを今でも覚えている。「身体に不自由のある夫の介護をしている友人と、介護が大変という話をしても、私たちの大変さとは違うし、話しても相手には分からないから話す気にならない」とおっしゃっていた。例え傾聴し、共感したとしても『経験した人にしかわからないことがある』ということが分かった瞬間であった。
まとめ
言語的なコミュニケーションは人間にとって重要である。当たり前かもしれないがそれを失うということは大変厳しい現実が待っており、その人だけでなく周囲の人へ多大な影響を及ぼす。私はAさんと出会い、自分にできることの少なさを思い知った。
理学療法士として失語症の方の支援を行うのは大変難しいと感じる。『認知症の家族の会』といった会があるように失語症にもそのような会があれば良いと思う。(私が住んでいる地域には私が知る限りない)
失語症となった患者さんの退院後の状況について、知る機会を設けてみてはどうだろうか?
その後
それ以来、妻同士で連絡を取り合い、話する機会を設けるなど、今でも良い関係性が続いているようである。今回、介護者の妻に焦点をあてたが、最も辛いのは失語症となった本人であることを決して忘れてはいけない。
先日、Aさんの妻からAさんが亡くなったと連絡をいただいた。
ご冥福をお祈り申し上げます。
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