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現役理学療法士が教える「評価」の流れと実際2(情報収集、検査測定、動作観察)

若手向け
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こんばんは卵屋です。

前回の記事「現役理学療法士が教える「評価」の流れと実際1(概要)」で理学療法評価の概要について述べた。

今回は各論、理学療法評価の詳細といくつかの補足、また実際に臨床で働く現役理学療法士だからこそ分かる「裏情報」をお伝えする。

なお、私は回復期病棟に勤務する理学療法士であるため、下記の内容は基本的に回復期病棟入院患者さんに対する評価の流れと捉えていただければ幸いである。

急性期や生活期でも基本的な流れは同じであるが、病期により重きを置く部分が違ったり、関われる時間の制約上、若干の違いがあることを先に申し伝えておく。

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はじめに

さて、前回、理学療法の評価は大きく分けて

1.「客観的な情報を集めるパート」(前半)

2.「理学療法士自身が考察するパート」(後半)

に分かれる、と述べた。

さっそく横道にそれるが、これら全ての作業は「1日」や「1回」のリハビリで到底できるものではない。

私が学生の頃は1回の評価で全て評価して頭の中を組み立ててすぐに治療に移らなければならない、そういうイメージを持っていた。が、そこまで焦る必要はない。というより1日でそんなことはできない(少なくとも私は)。

数日かけて患者さんと関係を作り、情報を取り、検査測定して、動作を見て、頭を整理してやっとできるものである。「じゃあその間、治療はしないのか?ずっと評価に時間を費やしているのか?」そんな疑問も湧いてくるかもしれない、が、さすがにそんなことはない。

その間は一般論としてルーティーンでやった方が良いことをやっている。廃用症候群を防ぐために、可能な限り離床してもらい(車いすに座ってもらい)、歩行が可能な方は歩行練習をする、ついでに動作観察もする。あるいは骨折の術後の患者さんであれば、関節可動域を測定しながら同時に関節可動域訓練も実施する、といった具合だ。

個別性のある評価が済んでいなかったり、一人一人の詳細な治療方針が決まっていなくても、入院リハという特別な環境、あるいは病気や怪我の特性などの「揺るぎない事実」から、「大まかな方針」として基本的にやった方がよいとされている運動療法を「とりあえず」やる。こういった考えで初期評価中の治療をやることは往々にしてある。

というよりそれ自体が初期評価になるのか…よく言われる「評価と治療は一体」というやつだ。学生の頃はこの言葉が嫌いだった。自分の考えが整理できていないことを隠すためによさげな言葉で逃げてるだけじゃん、と思っていた。が、今考えると確かにそんな時期もある、そうしないと進められないと思う、すみませんでした。

全ての情報が出そろって、頭の中が綺麗に整理されて、初めて治療にとりかかる、そういうイメージを持っているとこのあたりの整理が難しいかもしれない。

評価も済んでいないのに治療していいのかな?、「なんでこの練習してるの?」って先輩方にネチネチつっこまれるんじゃないかな?、そんな不安に駆られて眠れない夜もあっただろう。でももう大丈夫、これからは自信を持って「まだ評価は済んでません!」と言えばいい。大きな方針と詳細な方針を分別してやっていけばいいのだから。

例にもよって話が飛んだ。

1.「客観的な情報を集めるパート」

2.「理学療法士自身が考察するパート」

の話だった。

今回は1.「客観的な情報を集めるパート」について解説していく。

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情報を集めるパート(前半)について

このパートでの大事なポイントは「誰がやっても同じ情報が集まってくるようにすること」である。現実的には難しいがそれを理想として行うことが望ましい。感情や思い込みを出来る限り排除し、淡々と必要な情報を得ていくことが大事である。

それでは一つずつ解説していく。

 

情報収集

実場面ではカルテからの情報収集がメインである。

氏名、年齢、身長、体重などから始まり、疾患情報、現病歴、画像所見、各種検査データ、既往歴…と続く。

さらに、家族構成、介護保険情報、利用サービスなど社会的な情報も収集する。

 

ここで注意することは書面に書かれている情報は「8割程度に信じる」ことだ。書面の情報が全て正しいと信じるのは現実場面ではかなり危険で正確じゃない情報もたくさんある。

それは書いている人が意図してウソを書いているわけではなく、書いた時期や書面の書き方によってどうしても正確にならないことが出てきてしまうからだ。

「看護サマリーに、入院前のADLは家族様の介助で行っていると書いていました。なのでトイレは介助レベルがゴールと考えます。」と書面の情報一つをとって物事を進めていくのは、実は事実が異なることがザラにあり大変危険である。あまり書面を信じ過ぎず大枠をイメージする程度で収集することをおススメする。

ちなみに回復期病院の実際の場面で最もよく目にするのは紹介元病院(急性期病院)の「診療情報提供書」「看護サマリー」の2つだ。

え、「リハビリサマリー」は?と思うかもしれないが「リハビリサマリー」はある病院とない病院があり送ってくれていればラッキー程度。リハビリサマリーがあると入院後の離床の経過や前院での運動量などが知れてとてもありがたい。急性期PTの皆さま、お忙しい中大変恐縮です。

(ここからはさらに余談だが)一方で、ときにはリハビリサマリーが混乱を招くこともある。
こう言うと急性期PTに怒られるかもしれないが、現実場面では医師の診療情報とリハビリサマリーの内容が違うことがままある(例えば術後の荷重経過、運動療法内容など)。

新人さんともなると「リハビリサマリーにこう書いていたから」と医師からの指示以上のことをしてしまうミスがたまにある。急性期PTを疑うわけでも非難するつもりも全くなく、食い違う二つの情報(診療情報提供書、リハサマリー)がある場合の対処の仕方を回復期PTは心得ておいた方がよいだろう。

問診

医療面接とも言う。患者さんから直接得る情報である。

主訴、HOPE、現在(前院)の生活、入院前の生活…などがその内容だ。新たな情報を得ると同時に、カルテ情報と照らし合わせて情報の正確性を上げることも目的の一つである。

さらに返答内容や表情、声のトーンなどから性格、キャラクター、現在の精神状態、自分との距離感などを推測することも大きな目的である(どちらかと言うとこっちの目的の方が強い)。

主訴、HOPEについて補足する。

主訴、HOPEは学生の頃は絶対に聞きなさいと教わる。「で、主訴は?」「で、HOPEは?」という具合に嫌な先輩からツッコミを入れられる定番の項目である。

一方で、主訴やHOPEが大事なのはその通りなのだが、それを引き出すことはとても難しいという認識が理学療法界では薄い気がする。出会ったその日に「今一番困っていることは何ですか?」「この先何がやりたいですか?」といった質問で主訴、HOPEを簡単に決めつける風潮がある。

当たり前だがそんな簡単に患者さんの本音なんて聴ける訳がない。そこには強い信頼関係というものが必要になり、この人に思いを打ち明けたらプラスに働きそう、何か良い方向に進みそうと思ってもらえないと本心なんて言ってくれるはずがない。

その結果「特にありません」と返答され、「HOPEなし」と結論づけてしまう。旧実習の際は自分たちが考察をしやすくするために「歩きたい」という言葉を強引に引き出そうとすることさえあった。もはやお笑いの領域。

患者さんと出来る限り信頼関係を築き、言葉の端々から本心を汲み取っていく。訴える頻度や訴えた時の感情の出し方などから本心を推測する。そうやって少しずつ読み取っていくしか方法はない。他人の思いなんてそう簡単に分かるはずもなく、どこまでいっても予測・推測にすぎない。冒頭で述べたこのパートの完全に客観的なことができない理由の一つである。

検査・測定

関節可動域、筋力、形態計測、運動麻痺テスト、感覚テスト、腱反射テスト、各種歩行テスト…などである。一般的に「評価」と聞いて想像する項目たちである。

どの項目を測定するかは評価に割ける時間や患者さんの状態、疾患の特徴などを加味して優先度の高いものを選択していくことになるが、情報として多いに越したことはない。

回復期病棟ではこのあたりに時間を多く割けることがメリットの一つである。

後の統合と解釈で問題点や課題に直接影響しないからと言って決して無駄な評価ということはない。「問題ない」ということが分かることも大事な評価であり、また初期評価の段階で測定していたことが中間評価で活きることも臨床ではままある。

故にこれらは出来る限り正確に、出来る限り再現性の高いやり方で測定できることが望ましい。

のだが…

ここで一つ裏情報を付け加えると、理学療法士の行う検査の数値は人によりかなりバラつきがある。100人が同じ検査をしてみんな同じ数値になるなんてことはまずありえない。主観的な要素がかなり入ってくる。

例えば関節可動域。測定する関節によって骨指標を触診して角度計を当てて測定するように教わるのだが、触診したあとに触診部位から数ミリ数センチ角度計の先が(人によって)ズレることなんてザラにあるし、そもそも骨指標自体が数センチある部分もある(大転子、外果など)。
点じゃなくて面である以上、厳密にどこに角度計を当てるかは「その人」次第で、結果として角度なんて5°くらいの範囲であれば違いがでることは避けられない。人の目なんてそんなものである。

さらに批判覚悟で言うなら、この数値が5°くらい違ったところでそこまで大きな影響はない。
誤差の範囲である。大事なのは大枠を捉えること。股関節屈曲角度が120°と115°では特に大きな差はないが、120°と80°ではかなり違い、80°では生活に影響が出るのではないかと推測ができる。人による誤差はある程度受け入れ、またその影響はあまりないという共通認識が必要である。

動作観察

立ち上がり観察、歩行観察…など、言葉の通り動作を観察することである。理学療法士である以上、基本動作が観察対象になることが多い。

動作を観察する目的は、

1.動作の実用性を把握するため

2.機能的な問題点の仮説を立てるため

の2つ。

1.実用性の把握はそれ自体がアプローチになることが多い。実用性を把握することで他職種(看護師や介護士)に介助量やリスクを伝え、補助具や安全な環境の提案ができる。

2.機能的な問題の仮説立案は理学療法評価の一丁目一番地。これがロジカルにたくさんの仮説が出せると理学療法士としての格が上がる。平たい言葉で言うなら「カッコいい」。故に一般的に理学療法士の質を理学療法士が判断するときに最もみられる部分となっている。

 

「動作観察」「動作分析」は厳密には区別されるが、臨床場面ではほぼ同時に行われる。

「観察」だけして「何も考えない理学療法士」はいないからである。観察しながら「あ~まだ転倒リスクが残っているな」とか「ムム、思ったより速く歩けるな」とか「トレンデレンブルグ徴候が出現したな、股関節外転筋が弱っているのかな」とか何かしらは考えているからである。

動作観察の具体例について記しておく。脳卒中左片麻痺の症例を例に書いてみる。

観察動作:歩行(補助具なし)
全体像
見守りで歩行可。歩行スピード遅い。終始足元を見ながら歩く。歩行リズムは不正、左右の立脚時間には明らかな差があり左単脚支持時間が短い。
重心の観察
左立脚期の重心の軌跡は倒立振り子様とならず重心の上下移動は少ない。矢状面上、前方への推進性が乏しく後方へふらつく場面が観察される。左遊脚期に左足先が床に引っ掛かり前方へ突進様にふらつく場面あり。前額面上、左右の重心移動は一定せず左への重心移動が乏しくすぐに右へ移す場面が多い。また左への重心移動が多いときは立脚とともに体幹が左側屈していることが多い。

各期の詳細な観察
・左荷重の受け継ぎ期(立脚初期~荷重応答期):踵からの接地が得られず足底接地。接地後、右足が浮き上がるまでに時間がかかる。ヒールロッカーは機能せず接地後前方への推進力は低下。

・左単脚支持期(立脚中期~立脚後期):膝はエクステンションスラストパターンを取り、膝のロックで体重を支持。立脚後期での下腿の前傾は乏しく、体幹前傾・股関節屈曲を認める。

・左遊脚期:左下肢の素早い動きは乏しく振り出しに時間がかかる。矢状面上、足部は下垂足、膝関節の屈曲が乏しく股関節の過度の屈曲とぶん回し様の動きにより振り出す。前額面上では骨盤の引き上げとぶん回しによる振り出しを認める。

以上、私が普段観察しているようなポイントを中心に、普段私が観察している流れに沿って記してみた。もっと細かくもっと素敵な言葉を使って観察する理学療法士もいることだろう。あくまでも30代のおっさん理学療法士の動作観察の一例であると捉えていただき、少しでも参考になれば幸いである。

私が学生の頃の動作観察は、例えば歩行の、前額面・矢状面上での各関節の動きを層に分けて一挙手一投足を細かく表現するように求められた。開始姿勢はどうで、右遊脚期のときの股関節・膝関節・足関節の角度、さらに肩や体幹の姿勢、さらにそのときの左の同じ角度…それを歩行の各相全てについて記載するといった具合だ。

学生ながら、これって意味あんのかな?とか、出来る訳なくね?と思っていた。
未だにあれは必要だったのだろうかと思う。当然今もそんなことはしていない。上記のように大枠を捉え、機能的な分析に必要であろうポイントポイントだけ観察している。

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まとめ

さて、長々と書いたがここまでが評価の前半部分。情報を集めるパートである。

教科書的な評価の流れと、それらに関係する裏情報についてお伝えした。

正直なところ、ここまではあまり理学療法士によって差が出ない部分である(検査の正確性やどの項目を収集するかなどには差が出るが)。

 

次回は後半部分、たくさん集まった情報を基に思考を組み立てていくパート。ここからが理学療法士によって考えに大きく差が出る部分。

是非お楽しみに。

ありがとうございました。

現役理学療法士が教える「評価」の流れと実際3(ニーズ)

この記事を書いた人
卵屋

ブログ管理人、投稿者。
おっさん。回復期病棟で働く理学療法士。

普段から仕事や日常の出来事について熱く語り合っているおっさん達で「せっかくだから自分たちの考えを世の中に発信していこうぜ」とブログをはじめました。
おっさん達の発信が誰かの役に立てば幸いです。
よろしくお願いします。

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