こんばんは卵屋です。
理学療法士マッサージ問題。オムツ交換問題同様、SNSを定期的ににぎわすこの話題。
SNS、またリアルの世界でも、
「理学療法士はマッサージ屋さんじゃない」
「モミモミ理学療法士」
など、どちらかと言うと理学療法士のマッサージを否定的に捉える「マッサージ反対派」が多数を占めている印象だが、今回はこの理学療法士マッサージ問題について考えてみる。
はじめに
まずは、私の立場から。
「理学療法士にマッサージは必要か?」と問われたら、
私は「理学療法士にマッサージは必要」と答える。つまり「マッサージ賛成派」である。
少し卑怯だが注釈をつけるのなら「理学療法士のマッサージは『今のところ』必要」と思っている。
ちなみにここで言う「マッサージ」はいわゆる「モミモミ」である。もう少し学術的に言うと「揉捏法(じゅうねつほう)」のことを指す。
ストレッチ、ダイレクトストレッチ、筋膜リリース、モビライゼーション、リラクゼーション、コンディショニング…色々とそれに近い行為や言葉があり「マッサージ賛成派」と「マッサージ反対派」の中でもここを定義しないまま議論をすすめるため混乱が生じている嫌いがある。
賛成派「マッサージ(ストレッチ)に根拠がないだって?いやいや筋を伸張して関節可動域を改善するじゃないか」
反対派「マッサージ(揉捏法)で関節可動域改善?なに寝言を言っているんだ。」
賛成派「そっちこそもっと勉強しろ!」
などと不毛な議論が繰り広げられる。
ここでは正々堂々と「モミモミマッサージ(=揉捏法)」のことを指すと定義し、その上で、私はマッサージ賛成の立場であることを明言しておく。
では、なぜ私が賛成の立場をとるのか、一つずつ整理しながら主張を展開していく。
反対派・賛成派それぞれの言い分
マッサージ反対派の主張
まずはSNSや実際の現場でよく聞かれるマッサージ反対派の主張を取り上げてみる。
なんとも手厳しい…
マッサージ賛成派の主張
続いて私と同じ賛成派の主張も取り上げる。
うーむ…やや部が悪いか。
一つずつ整理して私の主張を認めてもらおう。
マッサージ自体の法律的な是非について
まず法律的な問題について整理する。
マッサージ反対派の中にはマッサージという行為自体を理学療法士が行うことはアウトだとする意見がある。
その理由は、通称あはき法(以下参照)によるものだ。
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律
第一条
医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。(厚生労働省HP あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律)
理学療法士になる前から「マッサージ」という言葉は生活にあふれており、当たり前のようにやったり受けたりしていたので特別意識はしていなかったが、「業」つまりマッサージでお金をもらおうと思うと上記のように出来る人が決められているようだ。そしてあはき法の中に理学療法士は含まれていない。
では理学療法士は「マッサージ」を診療業務で行ってはいけないということになるのか?
それは誤りだ。
それを示すのが以下の法律、
理学療法士及び作業療法士法
第四章 第十五条
2 理学療法士が、病院若しくは診療所において、又は医師の具体的な指示を受けて、理学療法として行なうマツサージについては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第一条の規定は、適用しない。(厚生労働省HP 理学療法士及び作業療法士法)
このように理学療法士及び作業療法士法、第四章、第十五条にしっかりと明記されている。
つまり、理学療法士が医師の指示の下マッサージを行うことは法律上問題はないということになる。
これでカルテにも堂々と「マッサージ」と書ける。
法律上の問題はこれでクリア。
では次に「そもそもマッサージって何のためにするの?」「法律上許されるからって効果がないとやる意味がないじゃん」といった疑問や批判に答えていく。
私がマッサージ賛成な理由
マッサージ賛成派には二つの立場があり、
一つは「マッサージ自体に医学的な効果がある」とする立場、
もう一つは「マッサージに医学的効果は期待しないが、それ以外の何かしらの効果を期待する」という立場である。
私はその両方の立場を支持している。ここではそれぞれ「治療マッサージ」と「慰安マッサージ」という言葉で分けて解説する。
治療マッサージ
治療マッサージ、つまりマッサージ自体に何かしら医学的な効果を期待して実施する行為について。
私はこと「痛み」についてはマッサージの効果があると思っている。
つまり「マッサージにより痛みの緩和が出来る」と思っている。
その生理学的な機序は、
と大きく二つある痛みの種類のうち、二次痛に対して。
二次痛の周囲の筋の防御収縮→…→発痛物質の放出、の流れをマッサージにより断ち切ることが出来れば「痛みによる痛み」を防ぐことが出来るのではないかと考えている。つまりマッサージにより筋の防御性収縮を抑制する、あるいは血流を改善させ発痛物質をとどまらせないようにする、などができれば痛みの緩和につながるのではないか。
加えて、マッサージのリラクゼーション効果により副交感神経を優位にさせ、痛みによる交感神経優位な身体状況から脱することも痛みの緩和につながると考えている。
しかしながら、過去にも調べてみたが、これらのエビデンスはかなり弱い…。どこまでいっても生理学的な事実の積み上げでしかない(科学哲学で言うところの演繹法による考え方)。
つまり、「マッサージ→疼痛緩和」と一足飛びで効果を示した研究がないため今のところ世の中にマッサージの効果は認められていないことになる。これはマッサージを再現性を持って定量的に実施することの難しさに起因するのだが、科学の世界でそんな言い訳は通用しない。治療マッサージを主張する私にとっては非常に部が悪い状況だ。
どうしたものかと途方に暮れていたところ、なんとこの度、ハーバード大学でウソみたいな研究方法でマッサージの効果を示した研究がなされた(2021年)。
(ナゾロジーさんからの引用)
ナゾロジーさんのサイト:(https://nazology.net/)
当該記事:マッサージ効果の科学的解明に成功!炎症物質を洗い流して回復速度を2倍にしていた(https://nazology.net/archives/97864)
現論文:Skeletal muscle regeneration with robotic actuation–mediated clearance of neutrophils
(https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.abe8868)
詳しくはナゾロジーさんの記事を一読していただきたいのだが、かいつまんで説明すると、「マッサージによって炎症物質や免疫細胞が筋肉から『洗い流され』、回復力の強化につながった」という研究。
マッサージの効果を示す貴重な研究である。
この研究では「痛みの除去」よりも「筋の回復」に主眼を置いているが、炎症物質を取り除く=痛みの緩和と解釈できると私は考える。つまりこの研究により私の考えも部分的に証明されたと、そういうことにしておく。
さて、以上のことから治療マッサージについて、私は「痛み」については有効な治療手段だと信じている。
(※痛み以外の医学的な効果について(例えば筋の柔軟性を改善する、運動学習を促進するなど)、他にあれば是非教えてください。)
では、マッサージの目的は痛みの緩和だけなのか?確かに回復期病棟には整形外科術後の方が多く痛みを訴える方はたくさんいるが、そうではない方に、そうでない部位にマッサージはしていないのか?
と問われると、答えはNO。むしろその目的でないパターンの方が多い。
ではどういう目的か?
次に解説する。
慰安マッサージ
慰安マッサージとは「医学的効果は期待しないが、それ以外の何かしらの効果を期待してやるマッサージ」、ここではそう定義しよう。
では、何かしらの効果とは何か?
それを説明するための準備として、「マッサージ」の特徴と世間一般の捉えられ方について整理する。
→マッサージは気持ち良い。筋肉を揉みほぐすと、多くの人が心地よい気持ちになる。私も大好きだ。もちろんやり方によっては不快に感じることもゼロではないが、お金を払ってまで受けようと思う人がいるほど基本的には気持ちの良い行為である。治療効果云々はさておき、マッサージ自体を受けるのが好きだという人はたくさんいる。そんな特徴がある。
→気持ち良いかどうかとはまた別で「マッサージ」は世間一般的には身体に良い効果をもたらす手技だと認識されている。「筋肉をほぐす」「凝りをとる」「体を整える」といった言葉を連想するように、何かマッサージを実施することで身体が良い方向に向かうと信じている人が多い。SNSで聞かれる「モミモミ理学療法士」「マッサージはエビデンスがないじゃん」と言うような批判は、あくまでもこの領域の医学知識を有する理学療法士を中心とした医療従事者内での話で、実際の効果云々はさておき「素人」はマッサージは身体に良い影響を与えるものだと信じ込んでいる事実がある。
マッサージは「気持ち良い」し「身体に良い効果をもたらす治療法」、これが患者側の「常識」となっている。
マッサージをしないことで起こること
さて、ここからが本題。
そんな性質を持ったマッサージ。そうなると、当然患者はそれをして欲しいと望む。むしろマッサージは「して当たり前」、しなければ「あの人はマッサージをしてくれない」と療法士をマイナス査定までする始末。
こちらがいくら「運動」の重要性を説いても、マッサージの持つ「気持ち良い」と「身体に良い影響をもたらす感」にはそう簡単に勝てない。マッサージの持つ「気持ち良い」と「身体に良い影響をもたらす感」の前ではPTは皆無力なのである。
だから「(慰安)マッサージは必要」などと短絡的に結論づける気はない。もう少し遠回りする。
さて、では慰安マッサージを実施しないとどんなことが起こるのか?について考えていく。
少し私の過去のお話にお付き合い願いたい。
と、長々と昔話にお付き合いいただいたが、「だからマッサージが必要」と声高に叫ぶには薄っぺらいエピソードであることは重々承知している。
が、上記のような経験を積んできたことで私の中で理学療法をすすめるうえで重要視すべきポイントが加わったのは事実。それが「患者の意欲」と「理学療法士との信頼関係」。
そう、何を隠そう慰安マッサージの目的はこの2つだ。
慰安マッサージの必要性
さて、話を戻して慰安マッサージの必要性について整理してみる。
元々意欲があってマッサージなどしなくても運動が実施できる、またマッサージに過度な期待をしておらず実施しなくても関係性を築ける患者であればする必要はないと思っている。
一方、意欲が上がらない、認知症があり自身の置かれている状況が理解できない、信頼関係を作らないと提案した運動を実施してくれない等、ただただ運動を提案しただけでは思うようにリハビリが進まない患者に対しては、マッサージという手段を使ってそれら種々の問題を解消するのもアリだと主張したい。
運動してもらうために対話をする、リハビリの必要性について説明をする、環境を変える、家族に来てもらう等と同じように、運動してもらうことを目的に手段としてマッサージを活用するのは許容すべきではないか、それが高い確率で運動へ導ける方法であるならば手っ取り早いのではないかと思っている。
この議論は、
- 上記のような目的でマッサージを実施して単位を算定することはよいのか
- そもそもリハビリを拒否する患者に対して無理矢理リハビリを実施すべきなのか
- 本当にマッサージが意欲を引き出したり信頼関係構築に適した手段なのか
といった議論も重ねなければならない。
「意欲や信頼関係のためだけに「不必要」なマッサージを正当化するなんて詭弁だ!理学療法士の風上にも置けない奴だ!」
「そもそも回復期病棟でリハビリ拒否する患者なんてリハビリ自体する必要ないじゃん。そんなマッサージでご機嫌取りみたいなことしなくても、本人にやる気がないんだったら無理にリハビリなんてさせなくて退院してもらえばいいじゃん。」
といった意見に強くは反対できない。その通りな部分もある。
ただ、その辺りは病院全体の方針として持つべきで、その方針が定まっていない、あるいは「拒否する患者でもうまくリハビリを進めなさい」という方針の病院の現場理学療法士は色んな方法を駆使して離床や運動を促さざるを得ない。その方法の一つに「マッサージ」を活用することを許してはもらえないだろうか。
私が(慰安)マッサージをする理由はこのような理由である。
まとめ
最後に、ここまでの話をまとめて、色んなマッサージの状況について独断と偏見で「実施すべき」「実施してもよい」「実施すべきでない」の3つに分類する。
→「治療」を目的としており、マッサージの炎症軽減効果も認められているため「実施すべき」。
→「運動」を目的としたマッサージであるため「実施してもよい」。
→「運動」を目的としたマッサージであるため「実施してもよい」。
→マッサージを実施する目的が治療でも運動でもないため「実施すべきではない」。
④に対する「単位をとるための時間稼ぎ」「目的のないマッサージ」などの意見は私も同じように思う。
また➁や➂に関しても当然時間配分やその他の訓練とのバランスはとるべきである。運動を目的に実施するマッサージが全て正当化されるものではないと考えている。
以上が私のマッサージに対する考え、「今のところマッサージ賛成」とする理由である。
ちなみに「今のところ」と注釈を加えたのは、この先マッサージに対する患者側の意識や世の中の風潮、科学の世界におけるマッサージの効果が変化した場合いつでも方針を変える気持ちでいるからである(むしろそうしたい)。
今回は「理学療法士マッサージ問題」について考えてみた。
皆さんはどう考えますか?
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