仮説設定ー検証作業についての記事が終わっていないが、新年度も始まるため、今回は少し脱線して、”人事考課における目標管理シートの書き方”といった内容で進めていこうと思う。
普段から年度頭に目標を設定し、それを年度末に再評価するという部門も多いと思われる。
特にここ数年で”目標管理シート”を用いて人事考課を行っている組織が増えてきたように思う。
ただ、療法士の業務における目標って?みたいに悩んでいるものも多いだろう。
私も同様の経験をしており、年度が始まるたびに様々な本を読んで勉強したものだ。
そこで今回は、それらの目標管理シートに関する私の経験を踏まえ、療法士(特に若手)に向けた年度における目標設定の方法を中心に目標管理シートの書き方について説明していきたいと思う。
あくまで私見の域を出ないないようだが、少しでも参考になれば幸いである。早速始めていこう。
目標管理シートを記載する前に
理学療法士(他療法士も同様)として働いているものはもれなく、専門の養成課程において理学療法士が何たるかについて学び、理学療法士試験に合格して理学療法士免許を取得している。
そして、個人経営の方を除いて、ほぼ大多数が何らかの組織に所属して理学療法士として働いているだろう。
そんな大多数の理学療法士において、以下の3つの立場が存在することを肝に銘じておいて欲しい。そしてそれぞれの立場には、必要とされる姿勢が存在する。
① 理学療法士としての立場
② 社会人としての立場
③ 組織人としての立場
以上である。
①の理学療法士としての立場における必要とされる姿勢とは、養成校時代に学んできた、”理学療法士とは何たるか!”といった感じのものである。患者のために何をすべきか、評価や治療技術の向上を云々…などが該当する。言わば、理学療法士として患者のためになることをしようという姿勢が必要とされる。
次に②は、理学療法士に限らず社会人としての立場であり、接遇やルールの遵守などになる。具体的には時間を守るとか契約を履行するといったものが必要とされる姿勢となる。
最後に③であるが、ある組織に所属している以上は、その組織の利になることを行う必要がある。例えば、コスト意識を持つなども必要な姿勢に該当するだろう。これに関しては、所属する組織ごとに異なってくることも付け加えておく。
①については学生時代から指導されてきており、②についてはいわば常識的なものであるため、特別なものと感じないかもしれない。問題は③である。
理学療法士として働いている人間のほとんどが、①の意識が強い。
これは医療という、言わば聖域のような現場で働いているためか、対象者に対して利になることを行うこと=正義という認識が背景にあるかもしれない。この姿勢についてはまったくもって問題無いのだが、厄介なこととしては、この①の意識はたびたび③と対立構造を呈しやすいことである。
分かりやすい例で挙げると、1日18単位を取ることが義務付けられているため、カンファレンス参加など患者に対して利になる介入が難しくなるといったものがある。
理学療法士としては、カンファレンス参加など直接コストに繋がらなくても患者の利になることはすべきであると思うだろうが、組織としてはそれよりも単位取得にて売り上げを上げてほしいと思うかもしれない。
さて、どちらが重要かは難しい話であるが、ひとまず話を進めていく上において私の立場を明確にしておく。
以上が私の立場である。
という訳でこれを頭に入れつつ本題に移っていこう。
目標設定の基礎
目標管理シートを書く上において、当たり前ではあるが自身の目標設定が重要となる。
患者の目標設定も同様だが、これがなかなか難しい。
療法士の分野については、一般企業の”売上”や”顧客数”のような数値で表せられる目標が立てにくい分、自身の成果を目標にしにくいところが、目標設定の難易度を極限まで引き上げていると思われる。
ではどのようにして目標を設定していくかであるが、やはり③の組織人としての立場を意識した上で目標設定を行っていくことが妥当だと思われる。
繰り返しになるが、組織に所属している以上は、組織に利になることを行う必要がある。そして、その組織にとって利になることを自身の目標に設定すればいいと考える。
「組織にとっての利」を考える上で重要なものが、組織の理念である。
理念について深く考えたことのないものも多いだろう。何なら自身の所属する組織の理念について知らない人もいるかもしれない。
実はこの理念というものが、法律でいう憲法みたいなものであり、その組織が社会活動を行う上での基盤となるものでなのである。
つまり、この理念を実現していくことが所属する組織の役割なのであれば、それに与する活動を行うことが組織人としての責務となってくる。
ゆえに、各人の目標に関しても、最終的に組織の理念を実現するところに帰結するものとすることが望まれる。
新人や若手については、自身の足りない部分を補うといったところに目標設定しやすいだろう。これについては、間違いではないが、できれば組織の理念を達成する上で、自身に足りない部分は何かを考えられるとよりベターだと考える。
ちなみに組織の理念がわからなければ、自身の組織のホームページをみたらよいだろう。
例として、リハビリ領域では有名な初台リハビリテーション病院の基本理念を示す。
「人間の尊厳」 の保持
一人ひとりの尊厳が認められ、個人が輝いて生きていけるように人権を尊重します。「ノーマライゼーション」 の実現
高齢者や障害者が健常者と共に暮らせる安全で豊かな社会の実現を目指します。「主体性・自己決定権」 の尊重
患者さまの主体的なリハビリテーションを推進し、自己決定権を尊重します。「情報」の開示
院内情報を開示し、患者さま・ご家族の方々が納得できるサービスを提供します。「地域リハビリテーション」 の推進
地域におけるリハビリテーションサービスの向上を推進します。
これも初台リハビリテーション病院のホームページから抜粋してきたものだが、仮にこの病院の療法士であれば、これらの理念から逆算して自身の目標設定が行えると、より有意義なものになると考える。
目標設定の方法
ここからは、目標設定の方法について述べていこうと思う。
まず新人や若手療法士に関しては、基本的に療法士としての能力向上に関するものが望ましいと考える。
そして中堅からベテランに関しては、自身というよりはより組織の運営に関わる部分となる、業務上のシステムに関するものや組織の課題解決に繋がるものについて目標設定すべきと考える。
では実際に目標設定の方法についてだが、有名かつ有用なフレームワークとして、SMARTというものがあるので紹介する。
目標設定はSMARTを意識
SMARTとは、目標設定での注意点に関する項目の頭文字をとったものである。以下説明する。
Measurable:測定可能な(達成度を測れるもの)
Achivable:達成可能(実現できる現実的な目標である)
Relavant:関連性のある(組織の理念や目標に関連する)Time-bound:時間制約がある(期限が設定されている)
例えば、”患者さんのためになることをします”という目標設定を考えてみよう。
”患者さんのためになること”というのは、一見素晴らしいことの様にも思うが具体性がなくその目標の達成のために何をすべきかがわからない。
同様にそれが実施できたかどうかについても、測定可能でないため他者が判断できない。
達成可能性や関連性についても不明確であり、期限の設定もない。
つまり、この目標はSMARTな目標ではないということだ。
さて、ではSMARTな目標設定として上記の初台リハビリテーション病院の理念を基に考えてみよう。
”今年度中に患者様の病棟でできるセルフエクササイズについてまとめたリストを作成する”
まず、セルフエクササイズのリストの作成ということで内容が具体的であり、かつ患者の自主性を重んじる理念との関連性も高い。
内容如何によっては達成可能であるものであり、今年度中という時間制約もついている。
問題はMesurableの点だが、数値化はできていないが、達成度をチェックすることができるため、これも満たしていると考えらえる。
これらの様に、SMARTな目標を立てることができると、そこから逆算することで、目標達成に向けた行動を容易に想起することができる。これがSMARTな目標の一番の強みである。
では、上記の目標から逆算してどういった行動をとるべきかを示していこう。
① 具体的なセルフエクササイズの方法を調査する。(自身で考えることも含む)
② 病棟で実施可能なセルフエクササイズについて選択する。
③ セルフエクササイズをまとめたリストを作成する。
やや大まかな内容にはなるが、SMARTな目標を立てることができると、上記の様に達成に向けての行程が容易に想起可能となり、これを目標管理シートに記載すれば、だれが見ても文句のないものができると思われる。
目標設定の具体例
以上が目標設定方法および目標管理シートの記載方法についての内容だったが、それでも難しいと感じるものは多いだろう。
という訳で私が考える目標設定の具体例について、いくつか提示するので、参考になれば用いて頂きたい。
新人・若手療法士
資格取得系 例:今年度中に脳卒中の認定理学療法士を取得する。
学会発表系 例:理学療法士の地方会で症例報告を発表する。
学習系 例:心臓リハに関する研修会に年3回以上参加し、年度末に部内でプレゼンする。
基本的には療法士としての能力向上に関与する内容となっている。
まずは自身のレベルアップを図ろうということろだ。
中堅・ベテラン系
システム系 例:病棟連携強化のための情報共有ツールを今年度中に作成する。
新規業務系 例:早期離床リハビリテーション加算算定に向けた制度設計を行う。
課題解決系 例:患者代行時の申し送り業務の時間短縮を図る。
中堅・ベテランになってくると、自身の能力よりも組織の利になることを目標にした方が妥当と思われる。
今までの経験を踏まえて、組織の課題を解決しようとする姿勢が求められてくるため、それらに応える形の目標設定にしている。
さて、これらはあくまで私が思いつく範囲であるが、所属する組織で求められていることと照らし合わせて、自身の役割について改めて考える機会になれば幸いである。
まとめ
私自身も目標管理シートの記載に毎年悩むものだが、ある程度組織における自身の立ち位置を意識した上で考えてみると、少しイメージしやすくなったので、皆さんも参考になれば考えてもらいたい。
組織のために!ってなると、なんか昭和な感じがして嫌悪する方も多いかもしれないが、仕事とは本来そういったものであり、組織のために利を出せない人間は、患者のためにも利を出せない人間だと確信している。
このような意識は、別の組織や別の業態に移った場合においても役に立つものであると考えるため、これを機に一度自身の仕事についても見直し、組織のための行動について考えて頂けると幸いである。
今回の内容は基本的な考え方が主であるが、新人さん向けにさらに詳しく解説した記事もあるのでそちらも参考にしていただけると幸いである。
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それでは今回はこの辺で!
もし疑問があれば、気兼ねなく質問頂けると答えます!
”色々いったけど、結局直属の上司の能力にも影響を受けるから難しいよね”
(´-`).。oO
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