前回のブログでは、臨床推論における仮説設定-検証作業の序論として、仮説の概要についての内容を記載した。
詳しくは前回のブログを見て頂けると幸いだが、”仮説”という概念を意識することによって、様々な事象を先入観なく、客観的に知覚することが可能になる。ただ、仮説という概念のみでは、臨床推論に繋げることは難しい。
という訳で今回は、”仮説”という概念を臨床推論に活かすために、臨床場面での仮説検証作業の具体的な方法についての内容で進めていこうと思う。
ハードルを下げるわけではないが、あくまで私見の域を出ない内容となるため、参考程度に見て頂けるとありがたい。
それでは早速始めていこう。
仮説設定-検証作業のポイント
どんな作業においても、最低限押さえておかないといけないものがある。
この仮説設定-検証作業についても同様のことがいえるため、まずは重要なポイントとして以下に示す。
仮説設定-検証作業における重要なポイント
① 仮説設定の方法
② 仮説検証のタイミング
③ 仮説検証作業と結果からの推論
以上になる。全てを述べると膨大な量となるため、今回のブログでは、①の仮説設定の方法について、具体例を用いて詳しく説明していく。
仮説設定の方法
仮説設定の方法について説明していくが、以下の項目を押さえつつ進めていく。
① 対象者の問題点のメカニズム
② 仮説検証方法の設定
③ 仮説検証作業の結果の予測
では、以前も提示した具体例も用いて説明していこう。
対象者の問題点のメカニズム
これは、一般的な理学療法評価の結果として導かれるものと相違ない。
理学療法評価とは、ある対象者の問題点の原因と思われる因子ついて、様々な評価方法により推定し、治療プログラムや目標設定を行うプロセスである。
この理学療法評価については、当ブログの管理人である卵屋のブログの理学療法評価の項目を参照頂きたいが、このプロセスの結果として導き出されるものの一つが、対象者の問題点のメカニズムになる。
少し小難しく表現しているが、要は対象者の問題点と原因とされる因子との関連性についての仮説である。
学生時分や実際の臨床場面において日常的に行っているものであり、特別に言及することもないのだが、この行程における気を付けるべきこととして、理学療法評価の結果で導き出された問題点のメカニズムについては、あくまで仮説であるという意識を持つことがあげられる。
様々な評価方法によって、ある程度妥当な推論を立てたとしても、それを実際に検証するまでは、仮説の域を出ない。仮に自身が立てた推論を真理であると認識してしまうと、以後の仮説検証のプロセスにおいて、自身の解釈が正しいという方向に方法や解釈を捻じ曲げてしまいやすくなると私は考えている。
これについては、前回の私のブログでも述べたが、あくまで仮説であるという認識を強く持って頂きたい。
この認識については、自身のみならず他者の行った評価についても同様であり、正しい-間違いの二元論でなく、どの程度”確からしい”のかという仮説のグラデーションを意識した上で考えると、一見突拍子もない推論であっても、その中身に光る要素が含まれていた場合に、自身の推論に活かすことができる。
上記の具体例で”仮説設定の方法”について示すと、左半分の”大腿四頭筋の筋力低下によって歩行時の膝折れが出現する”といった部分に該当する。
仮説検証方法の設定
”対象者の問題点のメカニズム”により、対象者の問題点と原因についての仮説を立てた。
この”仮説検証方法の設定”においては、その問題点のメカニズムを立証するための方法を設定する段階である。
ざっくり言うと、導出された問題点と原因について、原因となる因子についての介入を行うことによって、原因が取り除かれた際に、対象者の問題点の解決すれば、自身が立てた仮説が正しい(確からしい)と証明できる。ゆえに、当然のことながら治療プログラムも含まれる。
これに関しても、普段日常的に行っていることであるため目新しい内容ではないが、この仮説検証方法の設定で陥りやすい罠として、問題点の改善の有無についてのみ検証することが挙げられる。
具体例で説明すると、
といったことである。
以前も説明したが、問題点のメカニズムで設定した仮説は、対象者の問題点とその原因とされるものとの関係性も含まれている。
つまり、ある原因とある問題点の関連性をベースにして治療プログラムの検討および実施を行ったのであれば、治療プログラム前後の問題点の変化のみでなく、その原因が変化したかどうかも同時に検証する必要がある。
つまり、”大腿四頭筋の筋力低下によって膝折れが出現してかもしれないので、大腿四頭筋の筋力増強訓練を行ったら、膝折れが無くなるのでは?”という仮説を立証するためには、大腿四頭筋の筋力増強訓練を行った結果、大腿四頭筋の筋力が改善し、かつ膝折れが消失するかどうかを検証する必要がある。
対象者ベースで考えると、問題点が解決できたため特に問題にはならないが、療法士視点で考えると、実際には仮説と異なったメカニズムであった場合に、本当の原因に繋がる現象や要因を見逃してしまうことに繋がる。
これは、その後に同様の対象者を担当した場合に、今回の結果によって解釈をミスリードされてしまう可能性が高くなる。
よって、仮説検証方法については、必ず設定した仮説のプロセスまでも含めて検証するべきである。
”結果良ければ、すべて良し!!” ではいけないのだ。
仮説検証作業結果の予測
上記の流れによって仮説検証方法を設定できた。ならば、あとは理学療法介入を行って、仮説検証を実施する過程(再評価)だ!
一般的な考え方ではこうなるだろう。実際に理学療法プロセス(以下)においても同様の流れとなっている。
しかしながら、私としては、これで仮説設定を終わるのでは勿体ないと考える。
というのも、問題点のメカニズムの仮説を立て、仮説検証の方法を設定したのであれば、仮説検証作業の結果についても事前に推測できるのではないかと考えている。
ちょっと何言っているかわからないかもしれない… 実のところ私もうまく伝わるかどうかが自信がない。
ひとまず大前提として、この仮説検証作業結果というのは、仮説が正しいor正しくないという、仮説の是非を意味しない。つまり、治療プログラム実施前から仮説が正しいかどうかを予測しろということではない。
私が述べている”仮説検証作業の結果”とは、”仮説検証作業の過程の結果”を意味し、仮説検証作業において、自身の仮説が正しかったと仮定した場合に、どういった仮説検証作業の過程になるかを予め予測しておく方がベターであると思っている。
具体例で示すと、膝関節のMMTで4程度に改善していれば、膝折れは無くなるだろうといったところか。
ただ、これについては仮説通りに進んだ場合よりも、仮説通りに進まなかった場合の想定の方が重要になってくると考える。
どういうことかというと、”もし自分の仮説と異なった場合であれば、理学療法介入によって問題点のメカニズムはこう変化するな”とか、”そもそも問題点のメカニズムがずれていたら、仮説検証作業の過程はこうなるだろうな。”などという想定を、事前に行っておくということだ。
このように、自身が立てた仮説や仮説検証作業が予測したとおりにいかなかった場合についての、仮説を複数持っておくことによって、仮に仮説が異なっていた場合においても治療プログラムの再立案などスムーズに方針転換することが可能となる。
”君子は豹変す”
ただ意見をかえるということでなく、自身の仮説に対して客観的に判断できる方法を事前に行っておくことが重要なのだと考える。
まとめ
さて、今回は臨床推論における仮説設定-検証作業の仮説設定方法についての内容であった。私見が多いが、参考になれば幸いである。
次回は、仮説検証作業のタイミングと仮説検証の方法と推論について説明していこうと考えている。
最後に、これらの臨床推論過程において参考になる書籍をひとつ紹介しておく。
少し古い本ではあるが、臨床での思考方法についての参考になると思われるので、興味があれば確認いただきたい。
それでは、今回はこの辺りで!
”自分の思考を言語化することって、結構難しいね”
(´-`).。oO
続きの記事→臨床推論における仮説設定-検証作業 ②仮説検証のタイミング
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