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現役理学療法士が「運動学習」について語る2

全理学療法士向け
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こんばんは、卵屋です。

シリーズ運動学習、第2回目。

1回目の記事はこちらからどうぞ→現役理学療法士が「運動学習」について語る1

さっそく解説していく。

ちなみに本記事は以下の書籍にかなり強く影響を受けている。


➀セラピストのための運動学習ABC


➁モーターコントロール 原著第5版

著作権の関係上、書籍内の内容を詳細に記すことはできないため私の解釈が主になる。本格的に学びたい方は是非本書を手に取り学習していただき、その上で私の解釈と合わせてお読みいただければ幸いである。

私は➁→➀の順で勉強したが、初学者の方には➀→➁をおススメする。特に➀は名著中の名著。全理学療法士に一読してもらいたい。

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「運動制御」と「運動学習」の関係

「運動制御」「運動学習」とは

1回目の記事でも何度か出てきた「運動制御」「運動学習」という言葉。

タイトルで「運動学習について語る」とあるのにちょこちょこと「運動制御」という言葉が出てきて何だか釈然としないモヤモヤした気持ちになった皆様、申し訳ありません、ここで一度整理します。

「運動制御」と「運動学習」は切っても切り離せない関係。

例①)例えば、記憶の検査をしていて、「桜、猫、電車、という言葉を順に覚えて下さい」と指示を与え、しばらくして「先ほどの言葉は?」と聞いたところ、「桜、猫、…なんだっけ?」と言われると「記憶されていない」と判断するだろう。

例➁)例えば、部分荷重練習をしていて、「右足に30㎏の荷重をかけてください」と指示を与え、しばらく練習してもらった後、体重計を見ずに何度かかけてもらって、「23㎏・37㎏・43㎏・12㎏」だった場合、「学習されていない」と判断するだろう。

では、「31.2㎏・29.5㎏・30.7㎏・28.9㎏」だった場合、「学習されていない」と判断するだろうか…?

さて、例①と例➁の違いをみていく。

例①は言語学習の例で、例➁は運動学習の例。

言語学習の場合、「桜、猫、電車」という言葉さえ覚えれば、「覚えている(記憶している)かどうか」だけに焦点が当てられ、覚えていれば正しい言葉が出るし、覚えていなければ答えられない。

少し言い換えると「桜、猫、電車」を覚えるように指示されて、「さくる・なこ・でんしょ」などという失敗はまず起こらず、仮にそう答えても誰も「正解」とはしてくれない

一方、運動学習の場合は、「30㎏」を目標にしていて「31.2㎏」や「29.5㎏」と正確には「30㎏」ではないけれどおおよそ近ければ「正解」とみなされる

言語学習では近しい言葉で「不正解」、運動学習の場合近しい数字で「正解」、この違いは何なのか。

そう、運動学習には「記憶」と「遂行」の間に、言語学習にはない「制御」の過程が挟まるからである。

言語学習の場合は「記憶」さえすれば制御に気を使うことなく正確に言葉が発せられる。

運動学習においては確かに「学習」という過程は存在するが、「学習」したものが完全・完璧に遂行されるとは限らない。それは「制御」の過程があるからだ。

「運動制御」と「運動学習」の線引き問題

さて、これら2つの明確な線引きはなかなか難しい。

「パフォーマンスの変化」が「制御」によるものなのか「学習」によるものなのか、これを区別しようと思うとどちらかを厳密に定義する必要がある。

生理学の立場からすると、人間の頭がスケルトンになっていて、神経系の変化がリアルタイムで外から観察でき、かつ、制御の過程と学習の過程を生理学的に区別(定義)できて初めて可能と言えるかもしれない。

もちろんそんなことは不可能だ。

そこで心理学(行動主義心理学、行動科学)の領域では「運動学習」を次のように定義した。

「運動学習は練習や経験に基づく一連の過程であり、結果として技能的行動を行い得る能力の比較的永続的な変化をもたらすものである」
(「セラピストのための運動学習ABC,大橋ゆかり,株式会社文光堂,2004 第1章より引用」)

つまり、運動学習とは、

  1. (勝手に出来たのではなく)練習や経験の結果として上達していること
  2. (その場の数回ではなく)ある程度長く変化が続くこと
  3. (神経の構造が変わったなどの生理学的な変化ではなく)行動や運動の変化が現れていること

が必要だと主張した。

そうでない上達や変化は「たまたま制御の過程がうまくいった」と捉えるべきだと。

この定義が最もよい区別かは分からないが、とにもかくにも「運動学習」というカテゴリーは、「言語学習」のカテゴリーと違い「制御」と「学習」という2つのプロセスがあるためとてもややこしく、それでいて面白い領域だと感じる次第である。

第1回目の記事で「制御」と「学習」という言葉が入り乱れたのもこういった背景があると理解していただければ幸いである。

 

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「運動制御」について

さて、ここからは「運動制御」の理論について詳しく触れていく。

「運動制御」を改めて定義すると、

「運動の根幹的メカニズムを統制もしくは指揮する能力」
(「モーターコントロール」 ,Anne Shumway-Cook Majorie H.Woollacott,医歯薬出版株式会社:2020, 第1章 より引用)

となるらしい。

つまり、運動制御について学ぶということは、目的とする運動を行うために中枢神経や末梢神経がどのように関わっているのか、筋が収縮するまでの神経の伝達過程はどのように行われているのか、「課題」や「環境」は目的とする運動にどのような影響を及ぼすのか、などを学ぶことだと言える。

Bernstein問題

ロシアの生理学者Bernstein(ベルンシュタイン)は運動制御について以下のように投げかけた。

「制御に関するすべての責任を、どこかに仮定された中枢に担わせずに、動物の運動について説明することは可能か、また、どのようにすれば説明が可能なのか」
(Wikipediaより引用)

これだけ聞くとなんのこっちゃだと思う。

さて、これはどういうことか。

例えば、目の前の机に置かれたコップを取る動作を例に考えてみる。

肩や肘や手首はそれぞれ関節で、「関節」は一定の範囲内で自由に角度を変えられる。コップを取るという動きは、「:屈曲=〇〇度・外転=〇〇度・内旋=〇〇度:屈曲=〇〇度・回内=〇〇度手首:背屈=〇〇度・橈屈=〇〇度」とそれぞれある一つの角度が定められることにより遂行される。が、別にそれらの組み合わせ一通りだけが遂行するための条件ではない。「度」という単位が連続変数である以上組み合わせは無数に存在する。さらに、それぞれの関節をその角度に合わせるための「筋肉の働かせ方(各筋が発する張力)」の組み合わせも無数にある。それらを掛け合わせるともはや「数万」という組み合わせの中から一つを選択していることになる。それなのに人間という生き物は瞬時に一通りの組み合わせを選択してコップに手を伸ばす。これってどうやってるの?という問いである。これが自由度問題
また、例えば「歩きながらコップを取る」という条件が一つ加わると、重力や加速度などを計算に入れた上で関節や筋の組み合わせを設定しなければならない。さきほどの数万の組み合わせにさらにいくらでも存在する条件を掛け合わせることになる。そうなると組み合わせはもはや「数千万・億」に上るかもしれない。それなのに人間は一通りの組み合わせを瞬時に選択してみせる。はてさて、これってどうやってるの?という問い、これが文脈問題

これが俗に言うベルンシュタイン問題である。

 

というのも、昔は全て脳が一つ一つの筋肉に指令を出すと考えられていた。

これを鍵盤支配型モデルという。

ピアニストが鍵盤を弾いて音を奏でるのと同じで、脳が一つ一つの筋肉に神経を介して全て指令を与えていると考えられていた。

ベルンシュタインは、先の例のように数千万・億の組み合わせの中からたった一つを選択してスムーズな運動を発現させるのは、いくら優秀な演奏者(脳)がいても不可能なんじゃないか?またそれらを学習して保持しようと思うと記憶を留めておく容量がどう考えても足りないんじゃないか?人間はいかにしてこれらを解決しているのか?と投げかけたのである。

これは科学者たちがロボットを作るような場面において頭を悩ます問題で、我々が普段何気なくやっている簡単な動きも一から作り出すとなると至難の業で、いかに人間が神秘的な存在であるかがわかる。

さて、このベルンシュタイン問題を解決しようとこれまでたくさんの科学者たちが研究を重ね様々な理論を打ち出し発展させてきた。が、未だにこの問題は解決していない…。

次からはこの「運動制御」に関わる理論について解説していこうと思う。

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まとめ

今回は「運動制御」と「運動学習」の関係について、そして「運動制御」の領域における主要な問題について解説した。

「運動制御」と「運動学習」は厳密には異なるものだが線引きが難しい概念であること、「運動制御」には「ベルンシュタイン問題」という未解決問題が存在することを述べた。

次回は「運動制御」の主要な理論について解説し私なりの解釈を加えようと思う。

乞うご期待。

 

続きの記事→現役理学療法士が「運動学習」について語る3

 

この記事を書いた人
卵屋

ブログ管理人、投稿者。
おっさん。回復期病棟で働く理学療法士。

普段から仕事や日常の出来事について熱く語り合っているおっさん達で「せっかくだから自分たちの考えを世の中に発信していこうぜ」とブログをはじめました。
おっさん達の発信が誰かの役に立てば幸いです。
よろしくお願いします。

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