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SpO2の落とし穴に落ちないために重要な3つのポイント 前編

全理学療法士向け
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過去2回にわたって、SpO2に関する基本的な知識とSpO2の測定原理について説明した。

内容については重要なものと考えるが、やや臨床に応用する上ではわかりくい内容であったかもしれない。

今回の記事はよりSpO2の臨床視点での話になるため、過去2回の記事で物足りないと感じた読者にもとても参考になるだろう。

 

さて、SpO2は簡便に測定することができ、かつ数値も%表記のため非常に使い勝手の良い呼吸状態を表す指標であることは、今までも述べてきた。と同時に、測定原理から誤差も生じやすく、解釈に注意が必要なものである(ここに関しては前回のブログを参照頂きたい)。
ゆえに測定された数値を鵜呑みにしてしまうのは避けた方が良い。

というわけで今回は、”SpO2を臨床場面で用いる上で落とし穴に陥らないために重要なポイント”について、理由を含めて述べていきたいと思う。

 

まず、始めに下記の問題に答えてもらいたい。

あなたは76歳の慢性呼吸不全の患者を担当しています。安静時のSpO2は酸素1L投与にて98%を維持しており、呼吸数も15回/分と安定しています。酸素1L投与のまま歩行訓練を開始した瞬間にSpO2が88%に低下したため、一旦立ち止まりました。患者の様子は特に変化がありません。

問題:上記場面に遭遇した際に、あなたが次にとるべき行動として最も誤っているものを答えよ。

1.酸素投与量を増量する.
2.呼吸数を確認する.
3.プローブの装着部位を確認する.
4.自覚症状を確認する.
5.脈拍を測定する.

それでは始めていこう。

 

 

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SpO2の測定誤差

前回の記事にてSpO2は光を用いて測定していることから、測定誤差の可能性について言及した。

そこで今回は、SpO2で注意すべき代表的な測定誤差について述べていこうと思う。

全ての検査には何らかの測定誤差が存在する。ことSpO2の数値を理解する上では、偽低値偽高値について知っておく必要がある。

偽低値:真の値よりも測定値が低く出る誤差

偽高値:真の値よりも測定値が高く出る誤差

 

では、臨床場面でSpO2を解釈する上において、偽低値と偽高値のどちらの方が危険な誤差になるかわかるだろうか。

 

答えは、偽高値である。

偽低値については、真の値が測定した数値よりも高いことから、異常に測定値が低く出ている場合を除いては、致命的な状況にはなりにくい

ただ、偽高値に関しては、測定値上は正常であっても、実は低酸素となっている可能性があり、気がつかないうちに致命的な状況に陥る可能性もある

これらを念頭に置いておいた上で、臨床上で遭遇する可能性のあるSpO2の測定誤差の原因について述べていこう。

 

 

末梢循環障害

末梢循環障害があると、偽低値になる可能性がある。

 

前回の記事でも述べたが、SpO2を測定するためには、末梢動脈の拍動を利用して動脈成分を抽出する必要がある。

末梢循環障害があると、末梢動脈の拍動が弱化するため、動脈成分を抽出することが難しくなる。

場合によっては動脈とは別の組織を動脈と認識してしまうことにより、実際の値よりも低い値をとってしまう。(下図参照)

 

末梢循環障害により、動脈成分を正しく抽出できなくなる

【末梢循環障害により、動脈成分を正しく抽出できなくなる】

 

SpO2が明らかに低値である際に、手が冷たかったり脈拍が測定しにくい場合は、末梢循環障害による偽低値を疑ってもよいかもしれない。

対策としては、手を温めたり、測定部位を変えてみるのもよいと思う。他にも、プローブを変える必要はあるが、耳たぶや前額部であれば末梢循環障害でも誤差が出にくくなると言われている。

また、実際に末梢冷感が無かったとしても、プローブを装着した手で歩行器などを強く握りこむことで低値を示す場合もあるので、測定部位の状態には注意が必要だ。

 

 

体動(静脈拍動):偽低値

体動(静脈拍動)があると、偽低値になる可能性がある。

 

体動により本来静止している静脈が動くことになる。この静脈の揺らぎにより、動脈成分と思って抽出したものに静脈成分が含まれてしまうことで、実際の数値よりも低値と測定してしまう場合がある。(下図参照)

【体動により、動脈成分内に静脈成分が混入してしまう】

 

例えば、歩行している際にSpO2が低値となっている場合、労作による低酸素状態に加えて、体動による偽低値の可能性も考慮する必要がある。後にも示すが、動きを止めた場合にすぐにSpO2の数値が戻った場合は、体動による偽低値を考えるとよい。

ちなみに体動がない場合においても、重度の三尖弁逆流静脈うっ滞により静脈拍動が起こり、SpO2が偽低値になる可能性もある。

 

 

マニュキュア:偽低値

測定部にマニュキュアを塗っていると、偽低値もしくは偽高値になる可能性がある。

 

要因としては、マニュキュアによって光の透過性が障害され、測定誤差を呈するとされている。

下記の論文によると、マニュキュアの色による違いについて示されており、ライトブルーとオレンジが平均で1%弱程度の偽高値を示し1)、グリーンとブルーとブラックが平均で1%程度の偽低値を示す2)と報告されている。

 

引用文献:
1)Yek JLJ et al. The effects of gel-based manicure on pulse oximetry. Singapore Med J. 2019 Aug;60(8):432-435.
2)Hakverdioğlu Yönt G et al. The effect of nail polish on pulse oximetry readings. Intensive Crit Care Nurs. 2014 Apr;30(2):111-5.

 

ちなみに論文内では、測定誤差を減らすためにマニキュアを落とすことが有効であるとの結論だが、変化量としては±1%程度ということなので、臨床上ではそこまで気にしなくていいかもしれない。

 

 

貧血

貧血があると、偽低値になる可能性がある

 

SpO2は、実際の動脈血を用いて、吸光度とSaO2をマッチングさせることにより吸光度とSaO2の関係性からアルゴリズムを構築し、パルスオキシメーターによって経皮的に測定したものである。

これについては、正常とされるヘモグロビン濃度の動脈血を用いている。ゆえにヘモグロビン濃度が正常であれば、問題なくアルゴリズムを適応できる。
ただ、貧血の様にヘモグロビン濃度が低下している場合において、ヘモグロビン濃度が正常な状態で構築したアルゴリズムをそのまま適応できるかはどうかは疑問である。

ちなみに下記の研究によると、貧血によりSpO2は偽低値を示すとの報告があるが、これはヘモグロビン濃度が8mg/dl以下の場合と報告されていることから、よっぽどのことがない限りは考慮する必要はないかもしれない。(ちなみに誤差もわずか)

 

引用文献:
Perkins GD et al. Do changes in pulse oximeter oxygen saturation predict equivalent changes in arterial oxygen saturation? Crit Care. 2003 Aug;7(4):R67. 

 

 

一酸化炭素中毒

一酸化炭素中毒があると、偽高値を示す可能性がある。

 

一酸化炭素中毒とは、練炭自殺や火災現場での死亡原因となる。

酸化炭素は酸素よりもヘモグロビンに取りこまれやすいという性質があり、一酸化炭素がヘモグロビンに取りこまれると、酸素を取りこんだ場合よりも鮮やかな赤色に変化するといわれている。この色調の変化により、SpO2は偽高値を示すとされる。

この場合、SpO2は高値であってもヘモグロビンには酸素は取りこまれていない状態の為、SaO2としては低値となる。
ゆえに上記にも記述したSpO2が問題なかったとしても、末梢に運ばれる酸素の量は減少しているため、末梢組織の酸欠状態を来たし、最悪の場合は死に繋がってしまう。

ちなみに一酸化炭素中毒になると皮膚が鮮やかな赤色になるそうだ。

 

測定誤差の捉え方

他にも測定誤差の要因はあるのだが、上記の数例を知った上でも、SpO2の数値の解釈には注意すべきであることがご理解頂けただろう。

しかしながら、数値の誤解釈により危険な状態に繋がる偽高値については、私が調べた限りはマニュキュア一酸化炭素中毒のみしかなかった。(他にある場合は、コメント欄で教えてほしい。)

マニュキュアは変化量が少なく、一酸化炭素中毒は限定的な状況に限られることから、臨床場面でSpO2が偽高値にセンシティブになる必要は無いと考える。

ゆえに、SpO2が正常値を示しているのであれば、その時点での酸素化については問題ないと判断しても良いと考える。

 

SpO2には測定誤差が生じる可能性がある。

これがSpO2の落とし穴に落ちないためのポイント1である。

 

 

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まとめ

今回は、”臨床場面でSpO2の落とし穴に落ちないためのポイント その1”について述べた

元々は、残り2つのポイントについても今回の記事に含める予定であったが、測定誤差のみでかなりのボリュームになってしまったため、残りは次回に持ち越すことにした。

次回の内容も興味深いものになると思われるので、また来訪して頂けると幸いだ。

 

それでは今回はこの辺で。

 

”ボリュームが多すぎると、却って頭に入らない問題ってあるよね。正直、書いてる方もよくわからなくなってくる”
(´-`).。oO

この記事を書いた人
りゅうぞう

生理学好きのギャンブラーPT
経済と投資について勉強中!!

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