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経験年数10年超の理学療法士の頭の中~縦の推論と横の推論~

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ここ何回かに分けて、仮説設定ー検証作業を中心に、臨床推論についての記事を進めてきた。

臨床推論“という、なんとも取っつきにくくかつ需要が乏しいテーマだと我ながら思う。

しかしながら、普段の臨床の質を向上させる上では欠かせないテーマであるため、引き続きお付き合い願いたい。

 

さて皆さんは、職場の上司や先輩からこんなことを言われた経験が無いだろうか。

「もっと深く考えた方がいいよ!」

「疾患ベースじゃなくて、患者ベースで考えないと‥」

「視点を広くした方がいいよ!」

言われていることは何となくわかるが、どことなくスッキリしない感じがある。

 

なぜならば、これらの助言には「こうあるべき」という漠然とした方向性は示されたとしても、具体的な方法は示されていないからだ

まさにこれが、”臨床推論”という認知的なスキルを言語化することの難しさを示している。

 

という訳で、この言語化が難しい”臨床推論”に関して、過去のブログ記事を踏まえて解説していきたいと思う。

 

ただ前提として、今から示す方法については、あくまで私個人の経験に基づくものであり、エビデンスもなければ一般化もされていないものであることをご理解いただきたい。

 

さて、前置きが長くなったが、まずはじめに臨床推論の軸となる縦の推論横の推論について解説する。

早速始めていく。

 

 

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縦の推論

目の前の対象者に関して、とある解決すべき現象があった際に、その現象を細かく分析し原因を追及していく方法を縦の推論と呼ぶ。(あくまでこの記事内であり、一般論ではないことに注意!)

 

例えば、歩行時に膝折れがあった際に、膝折れの原因と考えられる因子を細かく評価し、対象者の疾患や背景因子を踏まえつつ、介入すべき対象を明確化していくプロセスである。

 

動作の課題のみでなく、疼痛の原因追及などについても、この縦の推論がよく用いられている印象がある。

 

論理で考えると、演繹的な考え方ともいえるが、この推論の質が疎かになってしまうと、対象となる現象の問題点が不明瞭となり、介入効果が不十分となる。

 

 

「もっと深く考えた方がいいよ!」

この助言の真意はここにある。

 

さて、この縦の推論に関してだが、私の印象として一般的な理学療法士はこの縦の推論が得意である。
というか縦の推論しかできない理学療法士も多い。

 

これに関しては、養成校時代からICIDFやICFなどを用いて、対象者の問題点と原因の結びつけを階層的に追及していくように教育されてきたからであり、理学療法士の評価プロセス=縦の推論といっても差し支えない。

ただ、私としては、この縦の推論のみしか使えないと落とし穴に落ちてしまう危険性が高いと考えている。

 

そもそも縦の推論は、演繹的な側面があるため、問題点と原因の関係性が明確化されるケースについては強い

例えば、膝折れと大腿四頭筋の筋力低下の関係に関して、大腿四頭筋の筋力低下があると必ず膝折れが起こるなどの状況の場合、運動学的にも説明がつきやすく、かつ一般的にも広まっているため、縦の推論が有効となる。

 

大腿四頭筋の筋力低下があると歩行時に膝折れが起こる。

Aさんは大腿四頭筋の筋力低下がある。

Aさんは歩行時に膝折れが起こる。

これを逆説的に考えるといった感じだ。

 

しかしながら、人間における様々な現象は、自然科学ほど十分には解明されていないため、問題点と原因の関係性が一般的に流布されている理論や運動学的にも妥当と証明されているにもかからず、実臨床において違った結果になるケースも多い。

 

すなわち、可能性の一つとして、”大腿四頭筋の筋力低下があると歩行時に膝折れが起こる”はあるが、この前提に当てはまらない人間も多いということだ。

この前提に当てはまらない人間に関しては、縦の推論が難しくなりやすい。

 

他にも、問題点と原因の関係性において、原因がものすごくファジーなものであるケースについても難しい。

例えば、膝伸展筋力はMMT5あるけど、起立時のみ力が入りにくいといったケースなどは、問題点と原因の関係性を言語化しにくく、縦の推論では介入すべき対象を明確化しにくいという問題が出てくる。

 

まとめとして、縦の推論は、ある現象を深めて考えていくことについては強く、それが妥当であった場合は、その後により高い介入効果を示すことができる。

ただ、一般的に言われている”現象と問題点の関係性”が異なるケースや、不確実性をはらんでいる現象の場合にはミスリードされる危険性をはらんでいる。

 

理学療法士としての推論の基本でありながら、意外とレベルの高い推論方法であるため、その質が高くないと効果的な介入に繋がらない。

 

だからこそ

〇〇という疾患なら△△という介入を行なえばいい。

××という手術を受けたなら、◆◆というパスに準じて進めればいい。

といった、パターン化された思考に陥りやすい人間が増えるのであろうし、こうしたらOKといった方法論が求められるのであろう。

 

 

「疾患ベースじゃなくて、患者ベースで考えないと‥」

この助言の真意はここにある。

 

 

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横の推論

さて、前項において縦の推論について概説したが、次に横の推論について述べていこうと思う。

縦の推論が演繹的に目の前の現象を突き詰めていくことに対して、横の推論とは、ある現象のみでなく他の現象と比較することでその現象の課題について突き詰めていく推論方法となる。

 

一般的には、”パターン認識”と呼ばれるものだが、縦の推論と比較しやすくするため、この記事では横の推論で統一する。

 

例えば、普段生活している時に以下の現象を認めたとする。

  1. タブレットでゲームをしていると、突然動きが止まる。
  2. ノートパソコンでストリーミング動画を視聴すると、頻繁にバッファリングが発生する。
  3. スマートフォンのインターネット接続が不安定で、ウェブサイトの読み込みが遅い。

 

これらの現象を個々に見ると、それぞれ別々の問題のように思われる。

しかし、これら全てを並列の現象として捉えると、共通の問題点として、Wi-Fiの接続などの”インターネット通信環境の問題”が示唆される。

なんてことはない問題点がわかりやすい例ではあるが、これが仮に”1”だけの現象のみだけで考えてみた場合はどうだろうか。

“1”のみの現象であればタブレットやゲーム自体の問題として捉えがちにならないだろうか。

 

もし初手でそう考えてしまうと、タブレットやダウンロードしているゲームに問題があるとして、そこを無駄に精査するというプロセスが発生する。

これに関しては、無駄な時間がかかるという点と、仮にそれっぽい問題が出てきた際に、これが原因だ!といった感じになってしまい、その呪縛から逃れられなくなる。(臨床場面でもよく見かけないだろうか?)

 

これが、前述した縦の推論の注意点そのものだ。ある現象とその問題点が別の次元に存在する場合、縦の推論のみでは往々にして問題の本質を見失う。

 

 

「視点を広くした方がいいよ!」

この助言の真意はここにある。

 

まあ、この助言者がどこまで横の推論を意識できているかはわからないが、少なくとも過去の経験から、現象と問題点の縦の関係を知っている可能性は高い。

”通信環境が悪くてもゲームが止まる”という経験をしていれば、他の通信機器の接続具合をチェックできるというわけだ。

 

 

次に実際の臨床場面において説明していこう。

縦の推論において、歩行時の膝折れの原因を追究している際、筋力測定で大腿四頭筋の筋力低下を認め、運動学などの前提を踏まえて、”大腿四頭筋の筋力低下”→”膝折れ”という関係の推論を立てたとする。

では、同じような現象を横の推論で考えた場合はどうだろうか。

 

まず横の推論においては、歩行時の膝折れはそのまま現象レベルで捉えるが、筋力測定で大腿四頭筋の筋力低下を認めた場合、”大腿四頭筋の筋力低力”ではなく、OKCでの膝の伸展筋力が弱い”として検査測定の結果についても現象レベルにて捉える。

そして”歩行時の膝折れ”ー”OKCでの膝の伸展が弱い”というように並列関係とし、これらに加え、例えば”上肢を使わない起立が不可””ゆっくりとした着座ができない”などの複数の現象を紐づけ、それらを統合して膝伸展筋力の低下と歩行時の膝折れについて、現象と問題点との関係として紐づける

この一連のプロセスが横の推論である。

 

まとめると、横の推論は様々な現象を並列関係で比較することにより、共通した問題点を抽出するプロセスとなる。

これによって、現象と問題点が別の次元に存在する場合においても、ミスリードされにくく、介入対象が大きくズレることは防げる。これが横の推論の強みと言える。

 

ということから私自身の臨床推論としては、この横の推論を中心となっている。

 

 

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縦の推論と横の推論の関係性

横の推論の膝折れと膝関節伸展筋力低下の関係性について、以下の様に思った方も多いかもしれない。

 

最終的に膝伸展筋力の低下と歩行時の膝折れについて原因と問題点として関連付けたのであれば、歩行時の膝折れと大腿四頭筋の筋力低下の縦の比較だけで良かったのでは?

わざわざ”上肢を使わない起立が不可”や”ゆっくりとした着座ができない”といった別の現象を確認しなくても良かったのでは?

 

これに関しては、結果的に縦の推論と同様の結論にはなったが、もし”上肢を使わない起立が不可”や”ゆっくりとした着座ができない”といった別の現象を確認できなかった場合、すなわち、起立着座動作は問題なく行えた場合横の推論の一番の強みが発揮される。

 

例えば、上記の例で縦の推論のみであれば、ひたすらゴムチューブや徒手的にOKCで筋トレを行い、筋力強化をすれば膝折れが無くなるということになる。

ただ、もし起立着座動作が問題なく行えた場合はどうだろうか?

 

そもそも筋力という観点で言えば、上肢を用いない起立と立脚期の下肢の支持に関してはそこまで大きな変わりはないだろう。(印象的には起立の方が出力が必要そう)

にも関わらず、起立はできるけど膝折れは起こるだと、縦の推論の結果では辻褄が合わなくなる。

であれば、単純な筋力強化が膝折れの解決に繋がるかが疑問となる。

 

例えば、この現象を説明することとして、膝関節軽度屈曲位での筋出力が弱い、すなわちある程度の受動張力に依存している状態であれば筋出力がでるが、そうでない場合は筋出力が低下するという問題点であれば、”歩行時の膝折れ””上肢を用いないでも起立可能”といった両者の現象の辻褄があう。

であるならば、単純な筋力訓練よりも膝関節軽度屈曲での出力強化や、CKCでのトレーニングの方が膝折れ減少につながる可能性が高いかもしれない

 

以上のように、横の推論であれば、不確実性のあるファジーな現象についても、介入対象についてある程度定めることが可能となる。

 

しかしながら、横の推論にも弱点がある。

一番は、縦の推論ほど突き詰めて考えられるわけではないため、介入対象は大きく外しにくいが、ピントがぼやけている可能性が高く、介入効果として不十分な点が挙げられる。

上記の例でいうと、膝関節軽度屈曲位での筋出力が弱いという結論には至ったが、その要因までは捉えにくいため、介入についても何となく膝関節軽度屈曲位での出力強化をしたらいいのでは?ぐらいのものとなっている。

 

上記を踏まえて、理想的な臨床推論としては、やはり縦の推論横の推論を組み合わせることが重要であると考える。

 

ちなみに、私は、実際の臨床場面において以下の様な順序で推論過程を進めている。

横の推論(対象となる現象を含め、様々な現象の確認と原因追及の方向性の選定)

縦の推論(①に基づき、対象となる現象の問題点についての仮説形成)

横の推論(②に基づき、関連する他の現象についての仮説形成後に確認)

縦の推論(③に基づき、再度対象となる現象と問題点についての関連性について紐づけ)

 

参考になるかはわからないが、わかりにくいようであれば、また別の機会に詳しく解説したいと考えている。

 

 

まとめ

今回は、より実践的な臨床推論をテーマとして、縦の推論横の推論について解説してみた。

臨床推論という認定的スキルを言語化して伝えるという、チャレンジングな記事になったが、いかがだっただろうか。

もしわかりにくかったり、もう少し詳しく知りたいとの要望があれば、気軽にコメントを頂けると幸いである。

 

さて次回は、今回の様なザックリとした推論の方向性ではなく、時系列を含めた推論の方法について解説したいと考えている。

 

まだ十分に固まっているわけではないが、私自身としても、なかなか面白そうな内容になりそうなため、興味があればご確認いただきたい。

 

それでは今回はこの辺で!

 

”今回に関しては、ブログでもtwitterでもレスポンスいただけるとありがたいな”
(´-`).。oO

 

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① 臨床推論シリーズの先駆け

 

②反響の良かった人事考課関連の記事

 

 

 

この記事を書いた人
りゅうぞう

生理学好きのギャンブラーPT
経済と投資について勉強中!!

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