それぞれの記事一覧ページへ

経験年数10年超の理学療法士の頭の中~記号と数式で紐解く奥行の推論~

全理学療法士向け
スポンサーリンク

なかなか前回の記事が好評だったので少々驚いているが、今回も今までの臨床推論シリーズを加味しながら、私が普段行っている臨床推論の方法について説明していきたいと思う。

何度も言うが、このブログ記事にある臨床推論方法については、私「りゅうぞう」の極めて個人的な考え方に他ならない。

エビデンスレベルで言うと、最下層の専門家の一意見程度のものである。

それを踏まえたうえで、読者の皆様が日々の臨床に向かう上で少しでも参考になれば幸いである。

早速始めていこう。

 

 

スポンサーリンク

縦の推論と横の推論の補足

前回のブログ(リンクは記事の最後)にて、臨床推論における縦の推論横の推論について概説した。

詳しい内容については前回のブログを参照して頂きたいが、縦の推論および横の推論におけるエビデンスの考え方についての説明が抜けていたこと気づいたため、まずはじめに補足として説明しておく。

 

エビデンスとは、臨床研究の結果として出力された、ある種の法則や原則みたいなものと考えている。

 

運動学的には大腿四頭筋の筋力低下があると膝折れが出現すると考えられるが、これはあくまで推測の域を出ない。
実際にそれが事実かどうかを判定するためには、臨床現場における様々な検証や解析によって導き出す必要があり、それによって導き出された解がエビデンスだ。

 

では、縦の推論横の推論におけるエビデンスのとらえ方について説明しいく。

まず縦の推論に関しては、患者の問題点や課題を追究するための前提としてエビデンスを用いる。

例えば、上記の例の”大腿四頭筋の筋力低下があると膝折れが起こる”というエビデンスがあり、実際に患者Aに歩行時の膝折れと大腿四頭筋の筋力低下が同時に認めているとする。

このエビデンスを基に、”大腿四頭筋の筋力低下があると膝折れが起こる→Aさんは膝折れがあり、かつ大腿四頭筋の筋力低下がある→Aさんの膝折れは大腿四頭筋の筋力低下が原因だ”といった形で縦の推論を進めていくことになる。

厳密には異なるが、論理における演繹法に近い推論方法であり、エビデンスはその推論を行う上での前提として用いられる。

ゆえに、この前提が確からしいほど縦の推論の強みは増す。

 

対して、横の推論におけるエビデンスのとらえ方であるが、以前のブログに挙げた評価のとらえ方と同様に、エビデンスについても1つの現象レベルとして扱う。つまり、”大腿四頭筋の筋力低下があると膝折れが起こるというエビデンスがある”といった感じだ。

いくら臨床研究によって確からしいと証明されたものであるとはいえ、序列で言うとほかの現象と同等に並列的に捉えるものとし、患者の問題点や課題の追及のための参考材料の一部という解釈となる。

 

では、エビデンスの質、つまりエビデンスの確からしさは意味がないのかというと、そういうわけではなく、エビデンスの質に関しては現象レベルの重みづけで差をつけることになる。

 

つまり、横の推論において、情報の序列としては横並びではあるが、それぞれの確からしさに応じて重みづけを変化させ、最終的により正確な推論に結び付ける。これが本質的な意味での横の推論となる。

 

結論として、縦の推論でも横の推論でも、使い方は異なるが、より正確な推論を行う上においてエビデンスは重要であることを付け加えておく。

 

 

スポンサーリンク

縦の推論と横の推論の限界

さて、以上のように縦の推論横の推論は組み合わせて使うことにより、様々な情報を有効活用することができ、対象者の問題点や課題の追及の精度が上がると考える。

ただ、この両者の推論には限界が存在する。

 

これらの推論の強みは、ある一定の時間軸における現象の解明には強いことである。

逆に言えば、時間軸が異なる現象の解明においては、その強みが失われてしまう。

 

どういうことかというと、対象者Aが入院してきて初回評価を行うとして、その場合の現象の解明に縦と横の推論を用いることは合理的である。
また、このAが1か月経過したあとの状態(仮にA’とする)について、縦と横の推論を用いることも合理的である。

ただし、現象としてAからA’への変化、つまり時間軸を踏まえた推論については縦と横の推論では強みが失われる。

このAがA’に変化した、すなわち時間軸を踏まえた現象、いわば”ΔA”についてもうまく推論できると、臨床推論の幅は大きく広がる。

時間軸を意識した推論。縦と横に対して、奥行の推論として、今回のブログを進めていこうと思う。

 

スポンサーリンク

記号と数式を用いた奥行の推論

縦の推論演繹的な方法を用いて行い、横の推論帰納的もしくはパターン認識と呼ばれるような手法を用いた推論方法であった。

では奥行の推論とは何なのか。

 

最初に断っておくが、奥行の推論とは、あくまで時間軸を意識した推論であって、特定の論理法を用いるものではない。

対象者の現象について、時間軸の概念を含んだ情報を整理し、その情報を縦もしくは横の推論を用いてより質の高い推論を行うための方法である。

 

縦・横・奥行と、話がごちゃごちゃになってきたが、前回のブログで話したようなものとは少し異なる点に留意頂きたい。

では、奥行の推論について概説していこうと思うが、この奥行の推論では、記号と簡単な数式を用いる。

内容が解りにくければ、またコメント等にて気軽にレスポンスいただけると幸いである。

ちなみに、記号と数式は以下のように用いる。

 

 

まったく意味がわからないだろう。

では早速始めていこう。

 

 

臨床推論概説~記号について~

さて、前述したが、私自身が普段臨床場面にて考える方法を概説するための方法として記号と数式を用いて説明しようと考える。

まずは、例示したものをもとに使用する記号の意味について説明する。

 

対象者の状態を表す記号

まず重要な点は大文字のアルファベットだ。

この”A”というアルファベットは対象者を示している。

Aさん Bさんみたいな感じで捉えて頂いて問題ない。

次にこのAに対して様々な状態を付加する。

まず右上につける項目だが、これは対象者の時間的な概念を意味する。

 

基本的に、無印の状態は起点となる時期となる。
理学療法でいうと介入前の状態や手術前の状態にすると理解しやすい。これに関しては、自身で規定して頂いて問題ない。

例示したものにある”´“について説明すると、この”´“はAの状態から一定時間が過ぎて変化した状態を表す。
Aの介入前後を示すのであれば、介入前の対象者が”A”で介入後の対象者が、”A’”といった感じだ。

また、右上に関してはより具体的な時期を入力しても構わない。例えば1週間後を指すのなら「1W」、1か月後なら「1M」でもよい。逆に起点となる時期より1週間前であれば、「-1W」といった感じだ。

基本的にこの部分も自由だ。
要するに、右上に起点からの時間経過を示していただければ問題ない。

ちなみに実際の内容でなく、予測したAの状態という意味で、Predictの頭文字を取って”p”を用いることも可能だ。これに関しては応用編で説明しようと思う。

 

次に右下についての項目を説明する。

右下の項目は”A”という対象者のより具体的な特定の状態を示す項目となる。

 

例えば、Aの歩行について言及するのであれば、A”gait”や、座位姿勢を表すならA”sit”となるだろうか。

もちろんA”歩行”でもいいのだが、何というか英語の方が見栄えはいいとは思うので、英語にしておきたい。

 

これに関しても、表記についての決まりはないが、右下に記載するものは対象者の特定の状態を示すという点は押さえておきたい。

 

さて最後にアルファベットの左側になるが、現状としては変化量を表すΔ(デルタ)ぐらいしか存在しないため、特に重要視はしていない。

以上が対象者の状態を表す記号になる。

 

対象者の状態を変化させうる外的要因の記号

次に説明するものは、対象者の状態に対して、なんらかの変化を及ぼしうる外的要因についてを表したものになる。

少しずつ説明していく。

I“ :Intervention(介入)を意味する。意図をもって行われた介入を意味し、理学療法や手術などが該当する。どの介入が行われたかを整理するため、必要に応じてIの横に介入内容を簡単に示す。例:I gaitなど

N”:Natural progress(自然経過)を意味する。何らかの介入がない場合でも時間的経過において変化を及ぼすものを指す。術後の自然回復などが該当する。

O“:Operation(手術)を意味する。厳密に言うとInterventionではあるものの、理学療法介入とは分けて考える上で別で表記する。

以上が対象者の状態を変化させうる外的要因の記号となる

 

その他の記号

最後にその他の記号について説明する。

F” :Factor (要因・要素)を意味する。例えば下肢筋力訓練という理学療法介入(I)には、下肢の筋力を向上させる“因子”をはらんでいる。その因子について、F(I)という記号で表記する。

 

この”F”が奥行の推論においてものすごく重要な役割を担うため、その他の記号としたが、是非とも覚えて頂きたい。

 

 

記号の活用方法 ー数式の意味ー

さて、記号の説明が終わったが、このままではどのようにして活用するかがわからないと思う

そこでこれらの記号を用いて奥行の推論の本質に迫っていこう。

 

まずは臨床実習の流れに沿って考えてみる。

まずは初期評価の状態を起点として、理学療法介入・最終評価の順で進めてみる。

初期評価の状態は”A” 最終評価の状態は”A’” 理学療法介入は”I”とする

次に初期評価から最終評価の変化度として、”ΔA”とする。

 

このΔAは最終評価状態から初期評価の状態の差といえるため、ΔA=A’ – Aとして表すことができる。

例として、患者の歩行能力の変化を表すために、ΔAgait=A’gait – Agaitとしておく。

 

さて、ここまで読んでみて、なぜ現象を記号であらわす必要があるのか?と疑問に思った方も多いのではないだろうか。

そもそも時間軸を意識した臨床推論における難解なところは、現象の整理が難しいことにあると思う。

 

現象の整理とは、何が何に関与しているかといった、現象間の繋がりを適切にとらえることだが、時間的概念が含まれる臨床推論の場合、同じ動作(例えば歩行)であっても術前と術後など、時期が異なる複数の現象が存在することになり、結果的により1人の対象者においても多彩な現象で推論していく必要がある。

 

この多彩な現象を上手く整理できない場合は、現象に対してシンプルに推論することが難しくなり、例えば介入前の歩行と介入後の起立動作みたいな、次元が異なる現象をむやみに比較して推論し、正しくない結果を導き出してしまうかもしれない。

 

言わば机の上が散らかった状態で作業をするようなものであり、何が重要であるかが不明確なため、推論が難解になってしまう。

 

そこで、この現象の整理を行うために用いるのが奥行の推論の本質であり、記号と数式はそれらを遂行するためのツールでしかない。

 

まずはここを頭に入れておいてほしい。

というわけで続きに行こう。

 

さて、先ほど提示した”ΔAgait=A’gait – Agait”だが、例えば介入前に歩行時の膝折れがあった対象者が、介入後に通常歩行となった場合、ΔAgaitは膝折れの消失となる。

次のステップとしては、ΔAgaitをもたらした要因について考えるフェーズになる。

 

まずはΔAgaitに関わる因子(F)、例で言うと膝折れが消失した要因をF(ΔA)とする。

そしてこのΔAという現象の変化は、おそらく理学療法介入(I)によってもたらされたと考えるので、F(ΔA)と理学療法介入がもたらす要因F(I)の関連性は高いと判断すると、F(ΔA)⇔F(I)といった関係性が想起される。

 

例えば、歩行時の膝折れがOKCでの膝関節伸展筋力訓練を行うことによって消失したという現象を考えてみる。

 

仮に膝折れの原因の一つとして大腿四頭筋の筋力低下を仮定し、膝関節伸展筋力訓練を大腿四頭筋の筋力改善目的として行ったとする。

この際、膝折れが消失した要因であるF(ΔA)と膝関節伸展筋力訓練の訓練効果であるF(I)は、膝関節伸展筋力の改善という点で一致しており、F(I)がF(ΔA)をもたらしたという推測は妥当性が高いと判断できるため、膝関節伸展筋力訓練という理学療法介入によって、膝折れが消失したのだろうという推論が成り立つ。

これらの話をもう一度整理する。

Agait:介入前の膝折れが出現する歩行

A’gait:介入後の通常歩行

ΔA:介入前後の差。つまり膝折れの消失

I:膝関節伸展筋力訓練

上に4つについては、実際に起こっている現象のため、事実である。

 

F(ΔA):膝折れ消失の要因⇒大腿四頭筋の筋力改善

 

F(I):膝関節伸展筋力訓練の効果⇒大腿四頭筋の筋力改善効果

始めの4つに対し、この2つに関しては、あくまで推論レベルのものであり事実とは異なるものであることに留意する必要がある。

 

F(ΔA)については言わずもがなだが、F(I)に関しても本当にその効果があるかどうかについては不確実性をはらんでいる認識が重要となる。

 

例えば、対象者の膝折れの改善のために膝関節伸展筋力強化を行う目的にてスクワットを行い、実際に膝折れが改善したという経験をしたとする。

自身の推測と結果が当たっているため、F(ΔA)が大腿四頭筋の筋力改善、F(I)が大腿四頭筋の筋力改善効果と考えるだろう。ただ、スクワットに関しては大腿四頭筋以外にも下腿三頭筋の筋力強化や大殿筋の強化など他の要因も考えられ、また膝折れの原因についても下腿三頭筋の筋力低下や膝関節の感覚障害など複数存在する。

 

推論

F(ΔA):膝折れの消失の要因⇒大腿四頭筋の筋力改善

 

F(I):スクワット⇒大腿四頭筋の筋力改善効果

 

事実

F(ΔA):膝折れの消失の要因⇒下腿三頭筋の筋力改善

 

F(I):スクワット⇒下腿三頭筋の筋力改善効果

実際には対象者の問題点である膝折れは解消されたため理学療法介入として問題は無いが、この経験を次に生かすためには、推論と事実の差をできる限り減らす作業は重要となる。

 

実際にF(ΔA)は大腿四頭筋の筋力低下で間違いないのか?

自分が思っている以外のF(I)は存在しないのか?

 

これらについては、対象者1例のみでは不可能な作業であり、かつ数が多いからと言って事実と異なる推論を積み重ねても逆効果となる。

 

重要なのことは、ある程度現象を正しく整理した状態で、あらゆる可能性を考慮しつつ、複数の対象者の実際の経験から得られる複数の現象を捉えることで、推論と事実の差を少しずつ埋めていくものであると、10年超の理学療法士としての経験によって私は確信している。

 

 

ちなみに、Aという状態にIという介入を行うことによって、A’という状態になったのであれば、以下の様な式も成り立つので、参考までに載せておく。

Agait + I ⇒ A’gait

例でいうのであれば、膝折れがある歩行状態に対して、下肢筋力訓練という介入を加えることによって、膝折れがない歩行となったということを意味する。

この様に視点が変わったとしても、数式をそれに応じて変化させて表現することができる。

これに関しては、応用編で詳しく説明する。

まとめ

今回は、奥行の推論として時間軸を意識した推論を行う上で、様々な現象を整理するために、記号と数式を用いる方法を紹介した。

さて、勘のいい方ならわかるかもしれないが、今回の記事の内容、つまり奥行の推論は振り返りの部分に特化している。

ゆえに、これまでの縦の推論および横の推論と異なり、奥行の推論は実際にリアルタイムで担当している対象者の臨床推論には使えないんじゃないかと思われている方も多いだろう。

 

確かに奥行の推論は時間軸を意識した推論方法であるため、振り返りが一番の強みである。

ただ、今回の内容はあくまで基礎編であることに留意したい。

 

この奥行の推論は、様々な応用が利かせられるため、リアルタイムで担当している対象者の利に繋がる臨床推論にも用いることが可能だ。

 

おそらく理学療法士として上級者であればあるほど、このごく当たり前のようにこの奥行の理論を用いていると思われるが、体系化されたものは見たことがない。

 

という訳で、次回は奥行の推論応用編として、リアルタイムで担当している対象者にも用いることが可能な様々な使用方法を解説していきたいと思う。

 

むしろ今回用いた記号については、その応用編において真価を発揮すると言っても過言ではないため、今回の記事を興味深いと思われた方は、是非とも次回の記事を楽しみにしておいて欲しい。

それでは今回はこの辺で!

 

 

”理学療法の臨床は本当に奥が深いですな”
(´-`).。oO

 

オススメブログ記事

 

① 縦の推論と横の推論

 

②反響の良かった人事考課関連の記事

この記事を書いた人
りゅうぞう

生理学好きのギャンブラーPT
経済と投資について勉強中!!

全理学療法士向け
スポンサーリンク
スポンサーリンク
シェアする
スポンサーリンク
おっさん理学療法士はこう考える

コメント

タイトルとURLをコピーしました